別れる世界・愛 皆本悠二

 とても楽しい、懐かしいひとときだった。本当にあったんじゃないかって思えるぐらいだ。


 祈里がふと何かに気づいたようで窓側に座る悠二の方を向いた。


「おめでとう。約束を果たしてくれてありがとう。でもこれは悠二の願いだよ」


いや、だってさ、あの時、約束しただろ。


首を横に振る祈里。そして悠二の目をみつめた。


「私の願いは悠二が幸せに生きる事。なんのために私があの曲を作曲したと思っているのかちゃんと考えてほしいな。だいたいさ、うちのお母さんが開いてくれた演奏会の時ですら気付かない鈍感さってほんと悠二らしい」


わざとらしくため息をつかれた。

いや、あの時には気付いたよ、流石にと思う悠二。

祈里は笑顔になった。


「だから好きだったんだけどね。……じゃ、いくね。バイバイ、悠二」

「待って、祈里。愛してる。これからもずっといつまでも、だから」

「ありがとう。私もだよ」


祈里は同時に愛美にも何か話しかけていたようだった。


そして、バスがガタンと揺れた。

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