重なる世界 悠二と愛美

 気付いたら隣には祈里はいなかった。愛美と悠二は顔を見合わせた。


 悠二は愛美の方を見遣った。お互い慌ててはいなかった。

「愛美。俺の記憶だと君と会った事はなかった。祈里だけだったんだけど、君の方は?」


 愛美は頷いた。

「私の記憶にも悠二はいなかった。そう、祈里だけだよ」


 バスが道路のつなぎ目でガタンと揺れた。悠二は溜息をついた。

「俺達は祈里を失った同士らしいな」

愛美は小さく首を縦に振った。

「そうだね。残された者同士だね」


 悠二は首を傾げた。

「さっきまで祈里がいたのは?」

「私達の夢、かな。そしてそうあって欲しいという私達の願いでもあるはず。それともあの子に何か特殊な能力でもあったのかも知れない」

愛美の推測は悠二の推測でもあった。

「だな。そして今俺達がこうして夢の中で語り合ってるのは」

肩をすぼめて苦笑する愛美。

「同じ境遇同士、何か通じちゃったのかもね」


「愛美、君にとっての祈里って何だった?」

「音楽でつながっていた親友。悠二は?」

悠二は深くため息をついた。

「愛美はフルートが上手そうでいいな。俺はトランペットでセカンド止まり。あいつとは雲泥の差だったよ。そんな俺を呼びつけて祈里が自分で書いた曲を演奏した事があいつとの一番特別な体験かも知れない。そして俺にとっては幼馴染で大好きな奴だった。」


 愛美は悠二を見ると断言した。

「祈里も君の事を愛してたと思うよ」

「そうかな?」

「そうでしょ。だいたいあの子は私には曲を書いてはくれてないよ」

「でも愛美、お前もあいつの事が好きだったんだろ?」

「そう。親友としての愛かな。あの子は音楽の上では競い合ってもいたけど大好きであの時までいつも一緒だった。だからあの子がいなくなって今も辛い」

「……それは俺もだ」


 悠二は愛美の方へ顔を向けると彼女を見つめた。

「なあ、愛美。今日こうして祈里と愛美に会えたのは何かの褒美なのかな?」

「コンクール、悠二のところも全国金を取ったんでしょ?」

頷く悠二。

「察するに愛美の所も全国金だよな?」

愛美は微笑んだ。

「みんな、頑張ってくれたから」

「じゃあ、そのご褒美で祈里が俺達に会いにきてくれたんだよな、きっと」

「うわぁ、楽観論。でも嫌じゃないよ、悠二」


 悠二は笑顔で言う。

「愛美、あいつはどこかでいつも俺や君を応援しているんだよ。だから俺も頑張るよ」

愛美も笑顔になった。

「悠二、私もそう思う。だから私も頑張れる。ついでだけど悠二の応援もしてるから」

悠二はオーバーな苦笑をして見せた。

「ありがとう。俺も愛美の事を応援するよ」


 悠二と愛美は通路を挟んで微笑みあった。

「じゃあね、悠二」

「バイバイ、愛美」

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