最終話 神は今

「神様って何でも出来ていいよな」


 若い彼が羨ましそうに言う。


「ホントよね。いくらでも好きなだけやれるんだから」


 若い彼女が若い彼に同意をする。


「何でも出来たら、悩むことはないだろうね」


 彼なのか彼女なのか分からない彼が、より『神様』を高いモノとした。


『神=全能者。それならば負のことがらを知ることは無いと思います』


 機械の画面に映る絵が、動きながら更に『神様』を高いモノとして確かにする。


「俺も、神様みたいに好きに、嫌なことなく過ごしたいぜ。きっと幸せなんだろうな」


 若い彼が最後に皆の賛成を得ることがを作った。


「――、お前もそう思うだろ?」


 若い彼が『私』の名前を呼ぶ。

 そしてそこにいた皆が『私』の方を向いた。


「『私』はそうは思わない」


 『私』は皆の考えに否定を言った。


「え? なんで?」


 若い彼女が皆が思ったことをことを代表して聞いてくる。


「何でも出来たら、悩みなくて幸せじゃない?」


 言われたことに間を一拍置いて、皆がこちらに耳を傾け終えてから、『私』は言った。


「確かに皆が神様だったら良いかもしれないけど。でも、一人だったら反対だと思うんだ」

『反対、と言いますと?』


 機械のそれが疑問を言葉にして『私』に問いかける。


「どれだけ好きに出来ても。どんなに悩みが無くて幸せでも。一人じゃ何も『意味』がないから。だからたった『一つ』の神様は、幸せじゃないんだよ」

「でも、神様っていっぱいいるよね?」


 彼なのか彼女なのか分からない彼が、言った言葉に、


「そう……だったら良かったのにね……」


 『私』は暗い反応を皆に見せてしまった。

 その反応に皆は不思議な顔をした。だから――


「だけど今は幸せだと思うよ。皆がこうして楽しく過ごしてるんだから」


 『私』が今思うことを、皆に伝えた。本当の、自然な笑顔で。

 そこにも皆は不思議な顔をしたが、いつものことだとして話題を他に移して行った。


「……………………」


 皆が楽しく話をする中、『私』はその光景を嬉しく見ていた。

 『昔』は有り得なかったモノが、『今』では普通と思える程間近にあることに。『私』は嬉しく思い、またこれが終わり、次になることが不安でもあった。

 だけれどもその不安も嬉しい不安だと、『今』だから思えること。

 『今』の『私』は何も創り出さないけど。

 『昔』のような私ではないけれど。


 そんな『私』で、『世界』を幾度となく生きたい。


 アダムとイヴが育んだ子孫たちは『こんな』ことになってしまっているけども。

 でも、『私』はそんな『世界』を。そんな『人々』を――。


「おーい。――。お前はどうなんだー」


 若い彼が考えていた私に呼び声をかけた。


「ご、ごめん。聞いてなかった」

「いつものぼーっとか? 仕方のない奴」


 言葉に棘はあるが、若い彼自身には棘とは反対の気持ちが伝わって来た。


「なら――。もう一度言ってやるからちゃんと聞けよ」

「偉そうに。そんな大した話じゃないじゃない。聞かなくても良いよ、――ちゃん」

「でも、――さんの話も聞いてみたいよね」

『同感です』


 皆の、繋がって行く言葉。

 そして言葉以外のモノも繋がって行っている。

 それは今も『世界』中で行われている。

 『私』もその繋がりの中の一つで在れている。

 同じだけど同じじゃない。

 違うけど違わない。

 そんな関係の中で繋がっている。


 ……あぁ。私が欲しかったのはこんな――。


 心で出た言葉はゆっくりと。しかし確かに広がって行く。


「それで、どんな話なの?」


 繋がって貰うだけじゃなく、繋がって行く。『今』は『私』もそれが出来る。

 だから『私』は。


 どんなことがあってもまた『人々』と繋がって。

 『最期』の時まで、『私』は『世界』を温かく見続ける。

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創私記 宮又ゆうも @yukisakaki

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