第4話 廻り廻る

 元々、果実を食べたイヴを『楽園』から追放するとは考えていなかったのだが、二人がどうしても私と同じ場所にいることを辛いと感じるらしく、二人をあの綺麗な物へと移住させることになった。

 私も敬いを持った二人に興味は無く、それを簡単に同意した。だからこそ二人が出たいと言った時にあの綺麗な物への移住を進められたのだ。

 けれどアダムだけでも一緒に居ないかと入ったのだが、アダムは、


「イヴと一緒に居ます」


 と答えた。イヴに同じことを聞いてもアダムと変わらなかった。

 私の予想ではイヴはアダムから離れたがると思っていたために、この結果には疑問が残った。

 アダムとイヴをあの綺麗な物へと連れて行き戻って来た後、私はどうしてイヴがアダムと一緒に居たいと思えたのか考えてみた。

 いろいろな検討をした。時間はたっぷりあるのだからと使い続けた。

 そして出尽くしたと思えるまでに検討した後、正解と思えるモノが頭を過った。

 それはイヴがアダムの『肋骨』から作られたと言うこと。

 つまり二人はどちらも欠けた、元は一つのモノだから元に戻ろうと求め合う。

 と言う仮定だった。

 しかし私にはその過程がどうしても正解だと思えた。

 その瞬間、私の目から『涙』が流れた。

 拭っても拭っても出て来る『涙』。その『涙』のわけを、私は流れ出るごとに理解していった。

 『それら』には様々な保護を任せた。頂点に立っていると言える。

 そんな『それら』だって私と言う創り出したモノの存在がある。ましてや力や形は違うがほぼ同じ時に創られた同列の『それ』がいる。

 同じで在れる者がはじめからある。

 塊や『植物』、『生物』には私や『それら』のように頂点の者がいて、そして同等のモノが横にいる。

それどころか自ら同じだが同じではない、同列だが下のモノを自ら生み出せる。自分を続けることが出来る。

 同じで在れる者が永遠に続けられる。

 アダムやイヴは互いを必要として、互いと在れることが喜びと出来る。

 離れ離れになったら悲しくなる。共に何かをすればそれだけで嬉しさになる。同じではないからこそ、だからこそ同じで在れている時が重畳なのだと。

 同じでないために新たに創って行ける。

 私が創ったものすべて、私よりも劣るのに、出来ないことがあるのに。

 それなのに、全て私が持てないモノを持っている。

 手に入れようとして、幾度も失敗したものを持っている。


 ……どうして。どうして私には共に在れる『相手』がいないのだろう。


 私は突然何もない『そこ』で意識を持った。

 ただ自分だけ。何もなく、何も居てはくれないそんな『そこ』。

 なぜ自分が『そこ』に在るのか。なぜ自分が意識だけを持ち、様々な事が出来るのか。

 『私』と言う在りモノがなぜ在るのか。

 意識を持った当初は『苦しい』としか思えなかったモノが、今では自ら創ったモノで語ることが出来る。

 そしてその『創る』ことで、私は辛さを感じることを覚えるようになっていた。

 私は『創る』ことで創ったモノ達から感謝をされた。敬われた。

 だが、『私』が『私』と言うモノで在ることで感謝をされたことも敬われたことは、一度としてない。

 『私』であるからではなく、『創る』ことをした『私』だから感謝をされてきたのだ。

 『それら』が『生物』にされるモノとは違う。

 『生物』同士がし合うモノとも違う。

 アダムとイヴがするモノとは全く違う。

 どんなことをしても、私は私のみ。

いくら見た目が同じであっても。いくら近づけたとしても。

私はいつもたった『一つ』のモノでしか在れない。

創って来た全てのモノのようには成れない。

しようとしても出来ない、ただ一つのこと。

アダムとイヴを『楽園』から送り出した後、考え至った『最悪』な答え。

至った答えを理解した時、私が今までしたことの全てが無意味になった

 私を『私』で在るために様々なモノを欲し、創ったこと。

 私が満足するために増えるようにし、毎回大量に食べたことも。

 創ったものが私の事をより敬うようにしたことも。

 管理することが面倒になり、『それら』に任したことも。

 上手くいかないことがあると様々なモノに腹を立てたことも。

 アダムやイヴに『私』を見てもらうためにしたことも。

 アダムがイヴを見続けることに嫌な思いをしたことも。

 何もかもが無意味になった。

 無意味になったが、どうしても欲することを止められない。

 手に入れられないと分かっていても、アダムとイヴの関係を、本当に同じであることを羨み、私もとするのを止めることを出来ない。

 そして私は『最期』にと、新しく『空間』を創った。

 そこに楽園を移し、『光』や『闇』などの環境を初めの『空間』と同じにした。

 次にどれだけ増えようとも大丈夫なように、『空間』と『楽園』を無限とした。

 それらをした後、私は『眠り』についた。

 『死』と言うモノを、私自身に創れなかったために、『眠り』についた。

 ただ、『眠り』では凄いことが起きた。

 眠っている間、綺麗な物へ移したアダムとイヴの子孫たちに私がなる『夢』を見れたのだ。

 『私』である記憶を持っている時。力まで持っている時。記憶や力、何もかも持っておらず、ただの『人』としてある時。

 様々なパターンで子孫になることが出来た。

 なれて、私は『私』であった時には感じられない『満たされ』を持てた。

 欲しても手に入れられず。目指しても届かなかったモノ。

 それが『夢』で、やっと届いた。

 そして、起きる度に私は『涙』を流していた。

 『うれしさ』、『かなしさ』、『喪失感』、『喜び』。

 様々な。本当に様々な『感情』に、私は『涙』を流していた。

 『涙』を流して、そして私はすぐに『眠り』につく。

 また『夢』の中で『満たされ』るために。


 『私』が『私』として在って良いとなれるために。

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