ファーストライン三人の馬鹿

 杭を打つ音、響き渡り掲げられる十字架の男。

 すべての罪を一身に体に与え、贖罪を果たした男。


 冗談じゃない、一人で世界が受けきれるはずがあるか。俺はいつもそう思っている、だがから当たり前のように、唾棄すべき偽善者の像にタバコを押しあてた。


「へぇ、お前らも大島金融から逃げてんのか」

「利子だけでもう億超えたから無理だと判断した。結局返済には飴玉一個だけだった」

「あそこの金利は人間の張られる額じゃないけど、支払う気ゼロじゃないあんた」


 震える手を酒で押さえながら、同じ金融会社から逃げてきた他のメンバーと軽い雑談をする勇者。まったく支払う期のないと事が、確実にわかる返済方法に二人はあきれた様子だった。


「とりあえず当面の資金は強盗で手に入れた。あんたらもアイユーブにいくんだろ、あそこは地元だからいろいろ都合が効くと思うけど」

「ふざけんなアイユーブの集落っていやぁ、あの悪名高きバードリの巣だろあそこにあるのは、冗談じゃないな俺はあんな血みどろ女になんて会いたくもない」

「なにいってのあんた!! あの全てを裂く風って言われてる、私好みの女の子でしょう。侮辱すると殺すわよ教会」


 遊女のような女が、どこからか銃を取り出す。この時代この程度の武器ぐらい盛っていなければ生きることすら難しい時代だ。だが倒錯した性癖を持っているその女は、教会と言う男に感情のままに銃弾を向ける。

 さしあたってこの程度の応酬はこの三人の中では当たり前のことだ。


「悪かったよ、お前の趣味が案なんだったとは知らなかったんだ許せ」

「というか賢者、お前の性癖がおかしいのが問題なんだ。一週間前まで、熟女だったくせに」

「ちがうわよ。失礼ね、私が好きなのは、私好みの女、そこに年齢なんてありはしないのよ!!」


 敗北勇者の新開、変態賢者の王崎、堕落神父の葛街。

 かつての勇者の面子最後の生き残りである。もっとも性格的に致命傷を負った人間ばかりしか生き残っていない。


 借金、利子の増加、支払い自体しない、相手側の無茶な要求、逃亡。


 まったく同じ状態でこいつらは、逃げ出しやがった。ちなみに勇者からあげていくと、飴玉、その辺の道を歩いていた子供、お祈り、こういった返済を行なった挙句の行為である。


 通常働いても返せる金ではないが、大島金融の中でも持ったも性質の悪い人間としてブラックリストにきっちり明記されている。それでもここの人間を殺していないのは最低限の恩の押し売りである。


「けど新開、お前はいくらなんでも無茶じゃないか。ファーストラインは」

「冗談だろう、歩いてなんていってられるか富嶽からアイユーブだぞ、歩くぐらいなら乗るだろう普通。大体いまさら死んだ人間を追うほどあいつらも馬鹿じゃないと思いたい」

「堂々と自分は戻ってくるっていったやつの台詞? けど本当に戻るつもりあるの」


 男二人がその言葉を聴いて笑う。

 その二人の大度に釣られるように女も笑う。


「そうよね、極限の敗北王最初のパーティーの言葉は十割嘘」

「とうぜんだ、一生懸命なんてやる必要があるか。今となっては最強のあの集団とやりあうなんて正気の沙汰じゃない」

「その通り、俺らにそんな力はない。魔王だって、運がよかっただけだ」


 奇跡を期待などするわけ問題だろう俺がと、アル中の勇者はまた酒をあおった。

 二人は同時のため息を吐いた。仮にも魔王を倒した勇者がとかそう言った類のものではない。


「そうでしょうね、あの魔王に新開が勝てたと言うこと自体が私にとっては夢物語の話しだもの、ただお願いがあるとしたらその力で今のこの状況を」

「どうにかするのぐらいは理解できてるがなぁ。だからこそお願いがあるぞ新開、今目の前にいる大島金融のヒットマンたちをどうにかしてほしいんだが」


 いつの間にか周りを囲まれ、力場兵器ではないにしてもかなりの力を誇る。前時代護身用の武器、浸透剄君と呼ばれる代物だ。誰でも達人のような攻撃ができると銘打って売られていた痴漢撃退(と言うより病院送り)の護身用具の一つである。


「冗談だろう、近接戦闘の俺の弱さをお前らなら知ってるだろうが。戦えば負けるぞ余裕で」


 自慢できる話じゃない、不適に笑う役立たず。

 屈強な男たちに囲まれても、酒をかっ食らう当たりこいつの神経は十二分に図太い。と言うよりこんな事を苦境に思うような人間が魔王と言う存在を倒せるわけもない。


「これはお前の仕事だろうが神父。頬を打たれる前にこぶしでも打ち込んでくれ」

「甘く見るなよ、この俺がそんなに強いはずもないだろう」

「極限の敗北者のパーティーがそろったと思ったら、まったくあの頃から変わってないのねあんたら」


 場面も懐かしむ賢者の姿は、この状況を屁とも思っていないことの証明でもあった。


「そりゃそうだろう、ファーストラインで武力介入するなんて馬鹿の事するやつがこの世にいるわけない」

「最強のあいつらに敵対すること自体馬鹿だ」


 横断列車ファーストラインは、完全に王国の手中にある。

 何より、人や物資の流通はここをもって行われるの、つまり経済の中心だ。

 そこで暴れると言うのはつまり王国に対する敵対と変わらない。

 

 それをわかっている彼らの態度は、ずうずうしいを通り越して喧嘩を売っている。


「お前らなぁ、恩人に対してどこまで喧嘩売るつもりだぁ……あぁ」

「大島か、喧嘩なんてこれぽっちも売ってないだろうが、ただ良かれ多額の借金とその返済方法がないから逃げ出すだけだ」

「完全防御新開となった俺には、まったく意味のない話だぞ。敗北勇者でさえ俺はないから契約不履行だ」


 鼻で笑って、大島金融の首領とも言うべき彼の恩人に対して私は借金を払う気はありませーんといいきる。それに便乗するように私もーと手を上げる女が一人。


「完全防御だぁ、敗北。しにかけたお前を助けてやった恩も忘れて」

「そんなことあったか、わかったよ飴玉もう一個やるから諦めろって、イチゴミルク味しかないからそれで我慢しろ」


 大島の懐に収めてある銃がいつ火を噴くかわかったもんじゃない。鬼のような表情を崩すこともなく、新開から投げられた飴玉を投げつける。


「大体武器を持って大島金融の社長が来ている時点で何かおかしいと思え。ちゃんと、王国の許可は得てある」

「そこまでして俺の処女がほしいか、変態め」

「仕方ないだろこいつはそういう男だ」

「そうよね、気を付けなさい部下連中。そいつは男の処女を奪うためならどんな事でもするわ」


 先ほども言ったと思うが、経済の中心である、移動とともにここには人間が多いのだ。

 ひそひそと語られる大島金融の社長の実態。いままさに会社は致命的な打撃を受けていた。


「そんなこと」「我らが」「知らんとでも思っているのか!!」


 そして部下が止めを刺す。


「「「望むところよ!!」」」


 ――――――この日、大島金融の信用度とかそういう以前に会社として致命傷を負うことになった


 だが部下の発言と、大島の銃弾は同時。銃口を向けられた新開はすぐさま隣にいた神父をたてにし、神父は賢者を、賢者は部下を、部下はもう一人を部下二人の悲鳴が上がったのはそれから数秒もしない間であった。


「ナイス盾」

「おまえはなぁ」

「あんたら」

「貴様ら、何いきなり俺の部下二人を処分してんだ。ツーかお前のせいで、会社が致命傷じゃねぇかよ」


 銃声はこの世界ではたいした破壊力を示さない。

 それは物理的な面ではなく、精神的な面でだ。観客はすぐさま銃弾の範囲から逃げ去り、そこには三年前救ってくれた男と、借金の返済をしない駄目人間どもという構図が並ぶ。

 片方はもうすでに涙目だ。すぐに大島の表情から色が消える、涙目だった表情はただの怒りにそれから無表情へと変わった。

 二人はそれを確認した後軽く離れる、次の展開が目に見えているからだ。


「もういいとりあえず死ね新開」人間は怒りに狂うとたいてい冷静になるものである。大島の怒りはそのまま彼を殺さんばかりに膨れ上がった。

「いや待てって、今度あったときのど飴にしてやるからさ」空気の読めない男の発言は、当然のように彼の逆鱗に触れた。


 銃声の音が響く、肉を抜く銃弾の音が列車内に響き大島の部下の悲鳴が当たりに響き渡った。


「ならどの飴が良いんだよ」


 欲張りなやつだと軽く肩をすくめ挑発的な態度をとる。言っておくが彼のこの態度は本気である、飴玉だけで借金の返済をどうにかしろと言い張る。


「金が良いって言ってるだろうがお前、20億さっさと耳をそろえて払え」

「やれやれだ、ない袖は触れないんだ。神父、賢者、とりあえずこいつ黙らせろ」


 一応、彼の命令を二人は聞き届けた。

 大島の首の骨が折れるのは、それから数秒もしないうちである。


 それからはテキパキとしたものである。部下をかなり簡単に殺害すると次の駅で全ての死体を破棄する。


「せっかく生かしてやってたのに失礼なやつだよ。さっさと諦めれば殺してやらなかったのにな」

「まったくだ、俺らがたかが銃如きで、ひるむわけないだろうって話だからな」

「二週間もしつこい返済我慢してあげたんだからね。あきらめろなさいよさっさと」


 最後の大島の死体を蹴り飛ばして下車させる。仕返しの様に唾を死体に吐き、大笑いしながらもとの席に三人は座る。

 生きているだけで迷惑な三人は、アイユーブで悠々と下車し借金ゼロのきれいな体になっていた。心は、どす黒い形容したがたいものだが。


「帰ってきたぞわが故郷!!」


 彼の言葉は、人間の冷たい視線を与えるだけだった。そんな男に顔を合わせようともせずに三人は別れる。

 確かに仲間ではあるが彼らは彼ら、自分は自分、個人主義であり何より深く干渉しないのがこのメンバーの掟である。

 そして彼は、武器を確認して一路自分が育った集落へ足を向けた。


 凄惨たる臓花 、彼にとって唯一本当の故郷と言える場所である。

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