第6話 ライバルたち②

『君に、対戦相手として、志願する』


 そう書き残されていた。その持ち主はロイ本人からだった。

 教室の机の引き出しに入っていた。黒い封筒に黒い手紙。白い文字が恨みを込めたかのような一方的な果たし状と、負けたときの命令もきっちりと書かれていた。


『俺が勝ったら、お前は退学届けを提出しろ! 断れば、お前を二度と魔法界から追放する』


 と、君からお前に進化していた。

 ロイはヤル気だ。恨む先は確実に違う。こんなのは間違っている。


 封筒を握りしめ、ロイがどんな人物であろうと、受けるしかない。成績優秀の人が順に選ばれる。ロイは一位だ。ロイを超えなければ、確実に狙われ続けるという。


 エミリやカルラがあれほど嫌気をさしていた理由が分かった。こういうことを平気でする人だから、相手にしたくないんだ。


 この試合で証明するしかない。きっぱりと断り、二度と対戦相手にされないようにしなくてはいけない。心に誓い、ロイの申請を受理し、そして明日、正々堂々と戦う。


 寮に帰宅するなり、特訓と称してエミリに呼びかけた。

 これからシャワーを浴びる予定だったと文句を言っていたが、ロイから指名されたと話したら、すぐに駆けつけてくれた。


 ロイの名前を打ち明けてか、エミリの顔は険しくなった。


「拒否して、絶対勝負してはいけない!」


 ダメだよと両手で手を握る。

 断ることはできない。


 クシャクシャになった手紙をエミリに渡す。内容を見るなり青ざめ、ロイが真剣に本気でルアをやめさせようとしていることに驚いていた。


「先生に話そう。これはヤバいよ。一介の生徒の恨みだけでやめさせるなんて、こんな話聞いたこともない!」


 素直に先生に相談していた。でも、命令は生徒が勝手に後から付け加えただけだから、本気にしなくていいよ。と、先生は言っていたが、この手紙を見るなり脅迫でしかない。


 先生が言う大人の事情が子供の事情を安く見ていることは明らかだった。


「――先生はこのままでいいといった」


「そんな…ありえないよ! いくら先生だからと言って、簡単に生徒の言い分を鵜呑みにするなんてそんなの絶対におかしいよ!」


 そんなことはわかっている。

 けど、現場を知らない先生からしてみれば面白半分やお遊び程度しか思っていないのだろう。


 あの大柄の男が細身の男に命令していたかのように先生は真剣にやめさせようとはしていなかった。


「だから、特訓してくれ。明日までにロイを勝てる方法を見出してほしいんだ!」


 少しの間をおいてからエミリは言った。


「わかった。私で良ければ協力するよ」


「ありがとう」


 さっそく特訓に入った。


 エミリに聞けば、ロイは全属性の魔法を習得するほど卑怯(チート)級の持ち主らしく。それが原因で前の学校でもめたらしく、退学して今の学校に転校してきた経緯がある。


 ロイは自分よりも目立つ存在を嫌う傾向があるらしく、初日から目立っていたルアを消そうと画作していたようだった。


「全属性習得(オールマジック)って卑怯でしょ」


「彼の生まれたての才能なんだって、だから、正直に言ってロイに謝ってもいいから戦おうとしないで! お願い。」


 ク…話しを聞いていた以上に厄介な人だと分かった。

 そんな相手を初日からするなんて夢にも思わないことだ。


 どうにかして回避するというよりも、どうにかしてロイの試合を中断させる必要がある。引き分けか第三者による試合停止しか試合を辞めさせる方法がない。


「いまさらやめられないよ」


 もう腹をくくっていた。

 時魔法でなんとかできると、エミリと特訓すれば何とかなると徹夜明けのように浅はかに考えていた。


 でも、違った。

 ロイには最初から勝てるという道筋はなかった。


「話聞いたよ、力を貸そうか」


 エミリでなく新たな別の少女が声をかけた。部活帰りなのか汗だくだ。


「ニール」


 金髪のアホ毛の少女だ。頭部から触覚のように伸びているのが特徴。回復魔法士を目指しているようで学生服の上から白いフード付きのローブを羽織っている。


「話は聞きました。私は回復でしか取り柄はありませんが、力になります。にっくきロイを一緒に倒しましょう」


 ニールの優しさが胸を起こす。

 あれだけの不安が一気に解消したかのような穏やかな気持ちになった。


「焦りは禁物です。私のように汗だくになれば、ロイを超えるとは言いませんが、強くはなります」


 そう言って、手を引っ張ってくれた。

 柔らかく小さな手だ。

 この時のニールは天使が舞い降りたかのような救われた気持ちになっていた。


「そうそう、シャワー貸してもらえませんか。汗だくでさすがに…臭いがね」

「私も同意見よ。ルア」


 二人して睨まれ、「どうぞどうぞ」と目を合わさずに二人をシャワーへお出迎えした。


 さっそく特訓開始したのは夜十時を超えるころだった。

 学校の図書室は深夜まで勉強している生徒や先生もおり、0時を超えなければ継続として使えるように許可はされている。


 残り二時間もないが、二人してロイを勝つ手段を考案してくれると言うので、二人一緒に話し合いながら、ロイの弱点などを探したり、本からヒントを得たりとして工夫をこなしていった。


「どう?」


 進捗はどうだ? と聞かれている。

 顔を左右に振ると、エミリは暗く残念そうにした。


「え、エミリのせいじゃないから! 大丈夫だよ。まだ30分はあるから!」


 エミリに元気づける。どっちが元気づけているのやら…と思いながら本を見つめ、ノートに書き写していく。


「そういえば、ニールはどこ行ったの?」

「あれ?」


 周りを見渡すとすっかりと場の空気が静かになっている。それどころか人がいたはずなのに人がいなくなっている。後片付けもせず本やノートなど出しっぱなしで人だけが消えていたのだ。


「なんいか、変だ」


 嫌な予感がする。

 エミリに顔を見合わせ、ニールを探そうと本棚へとそれぞれ分かれて捜索する。


 隠れているのなら、まだかわいいものだが。

 この状況、最悪な可能性になりそうでやや不安な気持ちになる。

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ルアと時の魔法学校 にぃつな @Mdrac_Crou

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