一章 ライバルたち
第5話 ライバルたち①
校内をくまなく見て回った。学寮はみっつあることと、エミリと同じ学寮であることと、学食は無料であることを教えられ、最後は魔法のすべてが詰まった図書室で締めくくった。
「夏でも快適に過ごせるし、冬でもゆったりと過ごせる快適な場所なのよ」
ウキウキと楽しそうにそう話すエミリ。たくさんの本がぎっしりと詰まった棚を見つめながら「ねえ、ルアはどんな本が好きかな?」とにっこりと笑いながら聞いてきた。
ルアは難しそうな本は基本的に読む気はないと断りつつ、趣味や調べたいものならなんでも読めるといった。
「漫画とか雑誌とかは読まないの?」
「そうだな・・・あ、あの本なら読むかな」
棚一列の上に飾られた看板に指す。”異世界ファンタジー”と書かれたコーナーだ。
「異世界・・・か、私はね植物図鑑が好きなの」
と言って、別方向へ指を向けた。”現代植物・魔界植物・空想植物”と書かれたコーナーだ。植物に関するあらゆる知識が詰まったコーナーとして主に植物に関する魔法使いにとってはお宝そのものだとエミリは言った。
「種から育てて水をやるなり肥料をやるなりと順に育っていくのがとっても楽しみなの」
とリュックの中に入っていた本を取り出し、見せてくれた。
”魔界植物”と書かれており、シリーズC8と書かれていた。
「C8?」
「オススメ評価とシリーズナンバーのことだよ」
「オススメ評価?」
「そう。どんな本でも読んでみて良かったとかよくなかったとか評判があるじゃない。ここの出版社は評価ランクを付けることで、その本を他人にも推薦してもいいという基準を設けているの」
ほら、と他の本にも同じようなランクと数字が書かれていた。
「エミリは基本的にどのランクまで読もうと思うの?」
「そうね、最低ラインでDまでかな。」
「ラインはどれくらいまであるの?」
「Aが最高で、Fが最低に位置している。Fランクはプレミアム並に数十冊しか発行されないし、文章も絵も最低的な面しか補助されていない。読む価値ないランクよ。Dランクだとまだまとも。もし、選ぶならDランクを基準に呼んだ方がいいよ」
この図書室で借りるのなら最低ラインDまでなら読む価値があると。Eランク以下は時間の無駄だと。
確かに、コーナーを回っているとランク・何巻(シリーズ含む)と表記されている。元の世界ではとうてい見ることはない基準法だ。
「明日の授業で魔法のテストがあるから、今のうちに魔法を見て覚えておくといいよ」
「明日?」
「ごめんなさい。質問攻めで授業聞いていられなかったよね。私こう見えても地獄耳なの。授業はちゃんと聞いていたわ」
あの続けさまの質問の中で先生の内容を聞いていられるとはすごいことだ。エミリの一方的な質疑だったが・・・、そうか明日が魔法のテストなのか・・・。
「具体的にどんなことをするの?」
立ち話で済ませるほど短い話でもないと、エミリは一旦テーブルまで移動し、椅子に腰かけてから順に説明していく。
「月に一度、魔法VS魔法と戦う試合があるのよ。成績が優秀な人ほど優先的に誰と戦うのかを決めることができる。私は前回、カルラと戦ったけど相性負けで完敗だった。」
「相性? 植物使いだから、火に弱いとか?」
「正解。カルラは火属性メインの魔法使い。私は植物メインの緑属性の魔法使い。カルラは私に決闘を挑んできた。試合に勝利したら”告白”すると宣言してね」
「告白って・・・大胆だね」
「カルラはああ見えて―――いや、なんでもない。結局、好きな人がいると嘘をついて、断ったわ」
勝負に勝利してフラれるとは・・・カルラに慰めの言葉をかけたくなった。
「それで、エミリは負けたんだね」
「うん。勝ちたかったけど相性が悪かったから」
少し残念そうに面を下げ、左手で本のページをペラペラと捲っていた。
「そう落ち込まないで、エミリなら次こそ、勝てるよ。ぼくはそう信じているから」
頭を起こした。
頭を左右に振り、普段通りにしようと頬を叩く。
「ありがとう」
そう一言残し、次に残虐な言葉を残した。
「次があればね」
「どういう意味?」
隣の席に座っている人に指を指す。
テーブルに胡坐をかきながら威張っている大柄の男が背は小さく弱気な男に命令を下している。気弱な男はいやそうにしているが、逆らえないらしく男の命令に忠実に従う犬のように機敏に動き回っていた。
「あのように、人を僕(しもべ)のようにする輩もいるの」
「それって・・・イジメじゃあ」
「それがこの学校のルール。次の試合までその申告は継続される。つまり、命令だったらそのまま続くということ。次にあの気弱な男が勝たない限りは変わらないでしょう」
ひどいルールだ。相手が負けたならなんでもしてもいいのか? 怒りがこみあげてくる。あの男、なに様なのだろうか。いくら何でもひどすぎる。
「あまり関わらない方がいいよ。あの大柄な男、周りの評判は低い。魔法の力(パワー)は並はずれるほど優れているけど、あのパワーに勝てる人は上級生かクロア、ロイぐらいしかいない」
ロイはあの陰気な少年のことだろう。
クロアはまだ聞いたこともない人物だ。誰だろうか、エミリの口から出たのなら、知っているのかもしれない。
「ロイは知っているよ。さっき廊下ですれ違ったし。」
「なにかされなかった!?」
「なにかって・・・」
「ロイは黒い噂が多いのよ。ルアと同じ転入生だから、目を付けられているかもしれないから注意してね」
「ロイって、いったい…」
キンコーンカンコーンとチャイムが鳴った。
「行けない、次の授業が始まっちゃう。急いでいこう!」
「え、あ、うん」
結局聞けなかった。ロイがどんな危険な人物なのか、クロアがどんな優れた人なのか、あの大柄の男の弱点などが聞けなかった。
まだまだ未熟だ。あの女性が進めたこの異世界で、まだ知らない事ばかりだ。この魔法が与えられたことに関してもまだ情報不足だ。次の試合までに知識を身につかなければ、取り返しつかないことになりそうだ。
意を決して心に誓う。
まだ始まったばかり。
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