第4話 転入生

 一時間遅れて教室に入った。転入生の自己紹介が遅れ、どうして遅くなったのは担任の先生は説明してくれた。


「――えー、今日から皆さんと友達になるルアさんです。この国に来たのはまだ初めてのようで、わからない事ばかりだと思います。皆さんの力になってやってくださいね」


「「「はーい!」」」


 十五人ほどのクラスメイトが集う教室のなか、興味津々に見つめている生徒のほか、面白くないとしかめっ面で睨む一人の生徒が窓辺から視線を送っていた。


「では、ルアさん。自己紹介してもいいですか?」


「はい、えールアです。まだこの国に来てから知らない事ばかりですが――」


「知っている。先生が言っていただろ」


 しかめっ面の生徒が食い込むようにして噛みついてきた。苦手なタイプだなと苦笑いを浮かべつつ紹介を続ける。


「――ですので、皆さん、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げた。


 拍手が教室内を響きかせ、ぼくは顔を真っ赤にしつつ恥ずかしそうに席へ向かった。


 席に着くと、隣に座っていた少女が頭を下げた。


「よろしくねルアさん。私エミリ」


「エミリさん、しばらくの間ですけどもよろしくです」


 頭を下げる。


 エミリはおとなしそうな子だった。黄緑色の髪色は美しい。自まだ成長して幼い葉の色のようだ。黄色い瞳を輝かせ、ルアを見つめ、授業中でありながらも何回か質問をされ、その返答に困りつつエミリと少しでも仲良くなりたいと先生の話をそっけにしていた。


 授業を終えると、話しをしたくてうずうずしていた他の生徒たちが集まってきた。ひとつの席に言葉という餌に群がる鯉のようだった。


「ルア君は、どこから来たの?」

「ルアさんは、女の子? 男の子?」

「好きな食べ物を教えて」

「好きな子のタイプを教えて」

「得意な魔法ってなに? あたい氷魔法が大得意なのよ」


 様々な質問を浴びせられ、半場困り顔になる。


「ちょっとみんな、ルアが困っているよ。質問はひとり一つずつ」


 エミリが仲介に入った。エミリを押しのけて質問攻めするみんなに腹を立てた行動だった。


「いつのまにさんづけやめたの?」


「私の質問じゃなくて、ルアの質問でしょ? まあ、いいわ。答えてあげる。授業という退屈の時間の間で私たちの距離は縮まったのよ。そうでしょ?」


 期待の眼差しを向けられ、大いに困り顔になる。


「ま、はい、そうですね」


 他人事のように話しをそれつつ、エミリの意見にそうだと言った。エミリは嬉しそうに、授業中に質問した内容をエミリ一人が答えていくようになった。


 この空気から逃れるかのようにそっと教室からでて廊下に出た。


「あ」

「あ”」


 黒髪の少年がイラ立ちながらルアを睨みつけた。


「邪魔なんだよドケッ!」


 そっと身を引き、黒髪の少年は面白くもないと痰を吐いて廊下の奥へと消えていった。その様子を見ていた赤髪の少年が近寄ってきた。


「大丈夫だったか?」


「うん、大丈夫だよ。」


 あの怖そうな顔はしばらくトラウマになりそうだ。不良のような人は少なからずいる。魔法学校でもそうでもない学校でも。


「俺カルラ。同じクラスだけど仲良くしてくれよ」


 気前よく手を差し出した。互いに握手を交わし友情の表現をした。


「あいつ気になるだろ」


 あいつとは、さっきの黒髪の少年のことだ。


「嫌われているんだよ。ああいう態度だから。ルアとは一週間前に転入してきたんだが、ルアと入れ替わるようにして人気が取り換えっ子したのが気に食わないんだろうな」


 カルラは両腕を組み、あいつ苦手なんだよと口を曲げて言った。ルアも同じだと意見を伝えると、「俺達なにかつながっているな」と意味深な発言をしていたが、空耳にした。


「彼の名前は?」


「ロイ。学年一位の実力者だという噂だ。なんでも上級生数人を相手にひとりで勝ったという伝説を残している。上級生でもあいつと目が合うと怯えるように逃げていくっていう話だ。あんなんじゃ、友達もできないだろうな。」


 カルラはよく知っている。ロイのことを。なにか気にしている点でもあるのだろうか。そのことを聞くのは失礼なのかもしれないが、ロイのことをもう少し知りたいと関心が膨れ上がる。


「カルラはロイのこと色々知っているみたいだけど・・・?」


「ああ、あいつとは腐れ縁でね。親戚なんだ。ロイとは父親の兄妹の息子という話なんだが、幼いころからあいつ、一人でいることが多かったんだ。人よりも優れ特定の属性以外をすべて習得する大賢者でも魔帝でも弟子にしてくれと志願するほどの天才だったよ。けどな、あいつは変わっちまったんだ。」


「変わった? なにがあったの」


「それは―――」


 重なるかのようにエミリが声をかけた。


「ルア! ここにいたのね、いまから校内を案内してあげるわ。カルラも一緒にどう?」


「遠慮しておく。じゃあな、ルア。また話せる機会にな」


 そう言ってカルラは去っていった。


 エミリを見るなりそわそわしていた。なにか隠したいものがあったのかもしれない。ロイのことはまた別の人に聞けばいいか、さて校内を見て回るか。

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