第27話 聖者(こうき)と生者(ひめ)3
「幸樹のバカ!」
馬車の準備を待っている間、ヒメは幾度も幸樹を罵倒していた。
苛立ちを覚えたのは、幸樹がこれから最下層の住人にしようとしていることを理解したからではない。
ましてや相談をしなかったからではない。
……自分のことを考えてよ!
彼を手段の一部として使おうとしていた自分が言えることではないだろう。
だがそれでも、重さが違う。
ヒメの計画では幸樹は生かす役割だ。時間はかかるが背負う物はない。あるとしてもそれは永遠に大切に出来る物だ。
だが今幸樹がしようとしていることは違う。
「……もしも」
もしも、だ。幸樹が本当に人を殺せると言うならば。そしてこれから幸樹がしようとしていること。
……最下層の住人を殺して、救う。
それは彼らにとっては良いことだろう。
けれども幸樹にとっては違う。
殺した相手は一生、幸樹にのしかかる。
それは恨みでも呪いでもない。まだ生きられる生物のこれからを奪ってしまった。その後悔が永遠にのしかかる。
どれだけ相手が望んでいようともそれは変らない。ましてや同じ人間なのだ。尚更にその感情は高い。
……できるなら。
幸樹に人を殺せる力などあって欲しくない。
もっと言うならば、彼がいなくなったのは気のせいで、まだ城内にいる。または外に出ていても最下層には行っていない。そうあって欲しい。
……夢が過ぎるよね……。
力の件に関しては分からない。
だが幸樹が最下層に行っていないと言うのは有り得ないだろう。
馬車が一つ無くなっていた。しかもムーマまで。更に各方面から幸樹が最下層へ向かって行ったと報告が来ている。これだけの事実があるのに向かってないと思い込むには無理がある。
きっと彼は最下層に向かった。だから、
「ヒメ様! 準備が出来ました!」
「わかった!」
……幸樹……。
「待ってなよ」
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