第20話 偽善の喪失者2
こちらに気を使い、笑顔で言う彼に、ヒメは無理矢理の笑顔で返す。
「あ、うん。そうだね……」
答え、話を打ち切るためにカップを口にする。
……私って、本当に話し下手だなぁ!
喉を潤しながら自己嫌悪に浸ると言う器用なことをヒメは行う。
もう少し上手く会話が出来れば結果は変わっていただろう。だが、その方向性へと移行させるための会話術が自分にはない。
誤解の内容に記すなら、素の自分を保ったまま画策をした会話を行うことが出来ない、だ。
この国の偉い者として、内外で対話をする際ならばそれに応じたキャラになる。その際ならば、上手く思慮深い会話で相手を誘導で着たりもできるのだが。しかし、素で話している人間が突然、性格が変わったような喋り方をしたならばそれは完全に怪しまれる。
なればこそ素の自分で会話をうまく回さなければならない。けれども、それが出来ない。
スイッチ、と言えばいいのだろうか。それが素では全く入らない。
故に、どこか不自然な対応で、中途半端にしか結果はならなかった。
……後は野となれ山となれ、かな。
結果が好ましくなくても良い。
好ましい結果になるまで繰り返せばいいだけの事だからだ。それに、どうなっても良い様になるよう、思案もしてある。
そのためにも、まずは目の前。これからの事が大切だと、ヒメは断ずる。
「それで。幸樹は今日まで遊んだりしていたけど、成果は出そう?」
「成果、ねぇ。わからないが、一つだけ疑問がある」
「何?」
「本当に、ヨスナ達をそのまま上に連れて来ることがダメなのか? お前の話だと、上に来た時に耐えられない、てことだった。けど、それにしては元気だし、俺の元の世界にいる子供と遜色ない。あれなら普通に生活させれば問題はないんじゃないか?」
「前にも言ったけど、母親と離したくないんだよ」
「それだって定期的に返してやれば」
その言葉に、ヒメは嘆息してしまう。
「……あのねぇ幸樹。幸樹は気軽に門を出入りしているから勘違いしているようだけど。あそこは開けないに越したことないの。徹底しているとはいえ、『堕ちる』ことや最下層のことを強く意識するかもしれない。だから、初回の時以外。今回だってアメやムーマにお願いして、衛兵と一緒に周囲を封鎖したり、見えなくしてるんだよ?」
「む。そうだったのか……」
「説明していなかったけど、そーゆーこと。幸樹や私のためならいざ知らず、流石に全員の為にいちいち門を開けてたら、頑丈にして見えない様にしている意味がないでしょう?」
確かに、と言って幸樹は納得してくれた。
……あれ? これはこのまま押せば行けるんじゃない?
苦労をしているアメやムーマには悪いが、行かないに越したことはない。それにムーマなら、ご褒美、とか言って喜んでくれるはずだ。
決め、幸樹を説得しようとした瞬間、
「おい、あれ何だよ」
「え?」
幸樹が急に立ち上がり、自分の後方に指をさす。
その方向はいつも幸樹が訪れていた場所。大きな壁があり、二枚の門がある。
そして、最下層でヨスナ達が過ごしている、そこ。
「……サンタナ……」
思い当たる節の名前を口にした直後、
「――――ッ!」
勢いよく幸樹が走り出した。
「ちょっと! 幸樹!」
止めている間にも先に行く彼を、ヒメは何手も遅れて後を追う。
一部霊性なのか、荷物を持ち走りにくそうに駆ける幸樹。しかし、対策差の関係で、距離はどんどんと離されていく。本当なら追うのを諦めてしまいたいが、追い付ける理由があるためにヒメは懸命に走る。
普段の運動不足と、慣れない全力ダッシュに、肩で息をしてしまう。が、その甲斐もあり、大事になる前に門の前へと辿り着くことができた。
そこでは、幸樹が複数の衛兵に羽交い絞めにされ動けなくされていた。
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