第15話 泡沫の遊戯3
アメを早々に見つけた幸樹だったが、その後は悲惨なものだった。
「……見つからない」
一時間ほど探したが一切見つからない。太陽ももう少し真上に行くというのに、だ。指定した場所を端から端まで見て回ったが、それらしき人影は一切なかった。途中で立派な建物を少し離れた場所に見かけたが、範囲外なため意味がなかった。
そんな余計なものは発見できても、ヨスナ達どころかあのムーマでさえ、幸樹は見つけることが出来ないでいた。
……そんな隠れる場所ないはずなんだが。
無茶をしてガラクタの中に潜り込めば可能だが、危険な場所は禁止のためないと思いたい。
もちろん、不死のため死なないから危険ではないと言われたらそれまでだが、考え出したらきりがないため置いておく。
「はぁ……どこにいったんだか……」
ため息をつきながら何度も来た道を確認しながら歩く。
「あぁん」
「…………」
いつもと変わらぬように地面を踏んだつもりだったが、そこからあり得ぬ声が聞こえた。
目頭を押さえ、天を仰ぐ。気のせいであれ、と願いつつ。天を見たまま再び地面を強く踏む。
「あぁああ、刺激的ぃいい」
「……oh」
頭痛が激しくなって仕方がない。
このまま放置をしたいが、それもそれで喜ばせるだけなので早めの対処が吉だろう。
はぁ、と長めのため息をつきつつ、
「ムーマ、みーつけた……」
「いやぁよくわかったねぇ」
もこっと土から上がってくる姿は完全なホラーだ。
立ち上がり見えるムーマはやはり体中が土で汚れていた。しかし、ムーマの体が一瞬ぶれたかと思えば、綺麗な格好になっていた。
「どうやったんだ?」
「脱いで体ぁを拭いてポーズを取って新ぁしい服に着替えただけだけど?」
「……何だか聞きたくないワンアクションがあったんだが」
「人の前ぇで裸になってポーズを取るってぇ……(ポッ)」
「顔を赤くするな、顔を」
ムーマの変態度は一体どこまで上がるのだろうか。
「それでね! 幸樹君、聞いてよ! 待っている間に何度も踏まれてたんだけど、普通に踏まれるよりもなんだか興奮したよ。そのおかげで元々土の中で息苦しいのにもっと息苦しくなっちゃって。気持ちよくなりすぎて何度も声を上げちゃいそうになったんだけど、バレちゃいけないといけないから我慢していたら、それがまた気持ちよくて。しかもなかなか見つけてくれなくて、じらされているようで。もう、最高だったよね!」
「あ。うん。そっか」
手を握られ、頬を染めた顔を近くに語られた。
状況的に女の子にされたならば嬉しいが、男にされても幸樹が嬉しさを感じる事は皆無だ。
だが、話す内容には思うことがあった。
「なぁ、ムーマ。お前のマゾ体質って……」
「んぅ? ――あー。もしかしてぇ聞いた?」
「あぁ」
「全くぅ。幸樹君は、それを本人に聞くって凄いよぉねぇ。聞いたのはアメちゃんかな? 本当ぅに、彼女は真面目なぁんだから」
困った、と言う感じではなく、幸樹とアメ、両者を慈しむ目をしていた。
「そうだぁねー。僕の場合、元々の資質が合ったぁみたい」
「恨んだりは、ないのか?」
「幸樹君。僕はぁ今、不幸せそうに、思えるかぁい」
「無茶苦茶幸せそうだ」
「ならそれぇでいいじゃないかい。それがぁいいんじゃないかい?」
笑顔で言う彼に、幸樹は、ふっと笑うしかなかった。
……ほんと、かなわねぇなぁ。
これこそ、年の功と言うことだろうか。どこかのロリババァとは、器の大きさが違った。
「もしも余裕があるなら、幸せを誰かぁに分けられれば良いんじゃ、ないぃかな」
「その対象が、アメってか?」
「……アメちゃんはねぇ、僕達の行いのせいで酷い目ぇに遭ったから……僕達が幸せにする義務がぁあるんだよ」
「義務、ねぇ」
「固い言い方ぁをしたけど、それくらい酷ぉかったんだよ。僕たちのやり方も。アメちゃんの状態も。最下層に落ちた人を戻すたぁめの実験。それでアメちゃんは結果ぁとして、父親に虐待を受けていたんだ」
「…………」
「怖い顔ぉをするのは当然だよ……僕が受けた実験の最中ぅに動機が泣いて叫んだような非道を、小さい子供に受けさせぇたのも同義なんだから。それを救ったからって、あの子の傷が、あの子の過去が、あの子の将来が。変わることなんてぇ、ないんだからさ……」
後悔の目。それを見て、幸樹は思い出す。ヒメが言っていた、アメにとって最下層は嫌悪の対象、の話をしていた彼女の事を。その時にヒメの目も、後悔が混じっていた。
「だから僕達、ね……」
「軽蔑ぅ、したぁかな?」
「別に。俺はお前たちになったことないからな。だから、どうしたいも何かしなきゃいけないとかわからない。必要なのは、お前たちがどう思うか、どう思ったか。それでいいと思ったなら、それでいいじゃないか。それが良いんじゃないか?」
「……結構幸樹君って、真似したがりぃ?」
「うっせ」
頬を染めながら、そっぽを向く幸樹。
だが言った内容に間違いはなかった。平和な日常を過ごしていた自分には分かり得ないことばかり。だと言うのに、その自身が持つ常識で相手を軽蔑することはしない。
「ほら。関係ない話は終わり。行くぞ」
「どこにだい?」
「集合場所。初めに集まった場所でアメが待っているからわかると思うんだが。あのアメがちゃんと待っているか、すっごく不安だからな。確認ついでに一緒に行くぞ」
「はぁい」
返事しながら、幸樹の歩く先で踏まれる準備をしたので、詫びとして踏む。満足した顔をしたので、先に行くと、その後ムーマは大人しくついて来た。
……あのワンアクション、必要だった?
疑問に思いながら幸樹は進む。
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