第14話 泡沫の遊戯2

 歩いて三分程。幾度か道を曲がった場所。


「何で堂々と立ってんだよ……」


 五十メートル先でアメが隠れることを一切せずに道の真ん中で立っていた。

 はぁ、とため息をつきつつ、幸樹はアメに近づく。


「やる気を出せとは言わないが、もう少しどうにかならなかったのか?」

「黙れ」

「何か見ているようだったが、何かあるのか?」

「黙れ」

「……もう少し優しくしていただけませんかね。そろそろ」

「だらしない。ムーマさんなら刺激が少なすぎてもっとと要求してくるのに」


 あんな変態と比べるな、とツッコミを入れようとした時、幸樹はあることに気付く。


「そう言えば、ムーマも男なのに名前でさん付けで呼ぶんだな」

「………………」

「そんな怖い顔をしなくても言いたくないなら言わなくていいよ」


 告げ、ついて来いと手招きをして幸樹は歩きだす。

 普通のかくれんぼなら案内する必要はないが、待っているべき場所を説明していなかったため一緒についていく事にしたからだ。


 ……これがヨスナかイミナなら言うだけでよかったんだが。


 初めにアメを見つけたのが運の尽き、と諦め先導する。

 拒否をされるかと思ったが、素直に彼女はついてきてくれ、


「別に話したくないわけじゃない。ヒメ様との思い出と違って」


 歩きながら話題を続けてきた。


「私はここ、最下層の生まれだ。そしてヒメ様は私を救って下さった。ただそれは私の存在の方。この場所から助けてくれたのはムーマさんと言う訳」

「よくそんな人を罵倒したり暴力を振るえるな」

「喜んでくれるから。それにあの人が痛いことを好きになったのだって理由がある。知っているからこそ変に思わずに対応できる」

「元来から痛いのが好きってわけじゃなかったのか」

「生来のモノなわけない。考えて言葉を話せ。それが出来ないとか、やはり虫……」

「今回は俺が悪いけど、アタックの数が多くありません⁉」


 後ろから唐突にグサグサと刺してくるのは心のダメージがデカいのでやめて欲しい。


「全く……。ムーマさんがああなったのは、あんたも聞いた戦争が原因。苦痛を快楽に出来る人間を作り出して、どんな過酷な場所でも潜り込め、どれだけ長い期間潜伏しても我慢でき、見つかり拷問を受けても白状しない、。そんな人間が作り出されたわけ。その一人がムーマさん」

「…………」

「だから私は救ってくれた人を幸せにしたいし、助けてくれた人を喜ばせたい。

 だからこそ、私は救ってくれた人を幸せにするし、助けてくれた人を喜ばせる」


 ハッキリとし強い意志を感じる声が、後方から聞こえる。

 邪魔はするな、と言葉にはしないがそう発言の後に付属するのだろう。

 言わないが確かに分かる。何故なら、


「刃物でチクチクするの止めてもらえませんかね?」

「気持ちよかったでしょ? 泣いて感謝して」

「どうしてお前の中の俺はムーマみたいになっているんだ?」

「ムーマさんが言っていた。お前からは同じ匂いがするって」

「そんな馬鹿な!」


 思い当たる節は幸樹には一切ない。趣味もされるよりする側だ。マゾの趣味なんて一時たりとも向いたことはない。だが別段嫌と言う気持ちもないわけで。むしろヒメくらいの可愛い子に罵倒されるのは嬉しいと思えなくもない。


『最終的に自白してないかい?』


 再び怨霊に思考を乗っ取られていたようだ。そろそろ慣れて来てしまっている自分がいるのが、彼の力の恐ろしさを物語っている。今乗っ取られればヒメやヨスナ達がひどい目に遭う。その様にならないためにも、気を引き締めてしかなければならない。

 緩んでいた気持ちの紐を再度締め、


「それじゃアメは――」

「様」

「……アメさんはここで待っていてくれ。他の奴を見つけたら向かわせるから」

「ちっ……なぜお前の命令を聞かなければ……」

「これはヒメのお願いの延長だと思うが? 今やっている事は、ヒメが俺に頼んでやっていることだし。つまりかくれんぼをやることがヒメ願いを叶えることになるわけだ」

「……虫のくせに屁理屈を」

「褒め言葉と受け取っとくよ」


 ヒラヒラと手を振りながら、幸樹は他の者たちを探しに出掛ける。

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