第13話 泡沫の遊戯1
「今日はかくれんぼを行います!」
初めて最下層に来てから三日後。幸樹はヒメ達6人の前で宣言した。
花畑とは別で、更に広い広場があり。今、自分たちはそこにいる。周りが少し高い丘に囲まれ、丘の下にはいくつかの家らしきもの。また資材置き場なのか、木材等が乱雑に置かれている。不思議なことに、この広場に最下層の住人はおらず、そのため幸樹は人を気にすることなく大きな声を出すことが出来た。
「コーキー、ひさしぶりー」
「はい。久しぶり」
三日程度だが毎日来ようと思っていた幸樹にとっては久しぶりと言ってよかった。
出来なかった理由は簡単で、アメにボコボコにされたからだ。
ヒメに触れたからだとか、動機は常人に理解不能なモノ。しかもその行為の結果が一日以上の昏睡と言うのだから恐怖でしかない。また起きて初めに会ったのがアメならばその度にジャーマンツープレックス等で気絶させて来る理不尽さ。
ヒメ曰く、最下層はアメの嫌悪する対象なのだそうだ。
故に彼女が下にいる場合苛立ってしまう。
……それ以外の時でも暴力を振るわれていたのですが。
言ったがヒメは明後日の方角を向いてしまったので幸樹は頭を押さえるしかない。
「それで幸樹さん。かくれんぼ、とは何でしょう」
「ふむ……」
顎に手を当てながら幸樹はチラリとヒメを見る。
「昔はあったよ。その知識も上にはある。けど下の人でやろうなんて物好きはいない」
「なら丁度いいな。かくれんぼっていうのは、集団の中から一人鬼を決める。そいつが決められた秒数を数える間目を閉じ、他の奴は隠れる。そして――」
「そして、油断した鬼を不意打ちで痛めつけるのが遊びのルールです」
「ドヤ顔で嘘をつくな。ヨスナ達が本気で怖がってるぞ」
「なぁにそれ! 是非ぃとも僕に鬼を!」
「ムーマも鼻息を荒くするな。俺が本気で怖い」
なぜ年齢が高くなるにつれて落ち着きが無くなるのだろうか、と幸樹は頭痛で苦しむ。
「説明の続きだが、鬼は隠れた奴を探す。見つかったらそいつはアウト。鬼は時間内に全員を見つけることが勝利条件。隠れる側は誰か一人でも生き残っていたら勝利だ」
「それだと、鬼側が不利過ぎませんか? 隠れる場所を移動したりしたら」
「イミナ、良い質問だ。もちろんそれだと不利が過ぎる。隠れる方もいくつかの制約がある。範囲はある程度狭い空間。そして隠れる側は場所を移動してはいけないし、時間が来て鬼が『もういいかい』と聞いたら、一度だけ『もういいよ』と言うんだ」
「なるほど。そうすることによって、声である程度の場所を察知できるんですね。見つかるエリアは狭くなっているから、方向が分かれば予測はできると」
「ああ。ただ、皆でほぼ同時に言うから一部の人しかわからないけどな。あとは危険な場所に隠れたりするのは禁止だな。探す方や隠れる方にとっても」
「分かりました。是非ともやってみたいです、幸樹さん」
……めっちゃええ子やん、イミナ。
狂人と変態と短いながらも近く濃い距離でいるためか、真面目なイミナに幸樹は心から癒されていた。
『それが幼女の魅力でありまして、やはり体の幼さと心の純粋さがあってこそ――』
長くなりそうなので勝手に話させておき、
「本当はじゃんけんとかで鬼を決めるんだが……」
「「「?」」」
「その説明をしなきゃいけないみたいだから、まずは俺が鬼をやって初めに見つかった奴が次のかくれんぼで鬼をやる、というシステムでやってみるか」
「「はーい」」
「あーう」
ヨスナ、イミナ、マキナが元気に返事をする。
「いい返事だ。それで、お前らは?」
「やるよぉ」
「返事をしろってぇ命令してくれたら返事をするぅ」
「死ね」
「……もうやだ……」
ヒメはテンション低いし、ムーマは変態だし、アメは意思疎通ができないしと諦めていいよね、状態だった。しかし、その隣で目をキラキラさせたヨスナ達がいるのですぐに立ち直る。
「それじゃあ俺が百数え終えたら聞くからな。それまでに隠れておけよ。範囲はあの四つの丘の内側で、制限時間は太陽が真上に来るまでででよろしく」
今いる広場から遠く離れていない土で出来た丘らを指さす。また、わかりやすいように太陽を目印に、時間的に言えば一時間程とし、
「よーい、スタート」
開始の合図をする。
号令と共に駆けだしたのはヨスナとマキナと抱っこしたイミナ。他の三人はやる気なさそうに歩き、それに嬉しそうに付いて行き、一人は地面に悶えていたので踏んで追い出した。
「がぁーんばーるぅよー!」
「一、二、三――」
踏んだ変態を無視して数を数える。
一定のリズムで数を数え、しかし普通に数えるよりも遅く数えた。
初めてかくれんぼをするヨスナ達のためだ。
「九十八、九十九、百――もーいいかい!」
『もーいいよ!』
……ヨスナとイミナの声しか聞こえなかったんだが。
本命の二人の声が聞こえただけ良しとした。
一応の確認のため、幸樹は振り返り下を見る。
寝転がったムーマなどはおらず、全員どこかに隠れに行ったのは確かだった。
どこからを見るか、と考えたが地域など理解しているはずもなくそのまま真っ直ぐに進んだ。
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