第8話 失楽園のカースト国4
遠目からも巨大と理解していた壁の前で、幸樹は圧巻されていた。
……戦争相手は巨人だったのか?
そう思わずにはいれない程に、巨大であった。上を見上げる首は、普段使わない可動域まで達し痛くなる。ここまで大きくする必要性があるのか、幸樹は甚だ疑問だった。
その壁の側。本体のせいで大きくは見えないが、普通に考えれば十分に高さと広さがある扉の横で、門番らしき兵士とヒメが会話をしていた。中に入るために許可を得なければならず、上の人間に話を通してもらうためだ。
通常なら、事前に話を通しておけばいいのだが、急な事だった為それも叶わなかったそうだ。
……電話でも、なんて思ったが、そんなものないのだろうな。
後方の、これまで通って来た街並みを見る。
十六世紀程のヨーロッパ。地面は一面石畳で舗装され、しかしそこに面している家はレンガ造りや一部は木製であったりと様々。衛生面は十六世紀ヨーロッパよりは圧倒的に良いが、やはり電気機器などはない。ただ代わりにガス灯のような物が設置されている。
技術も文化も進んでいたり遅れていたりと、まばらだ。
きっと不釣り合いな部分は、来訪者がもたらした知識によって得られた産物。けれどそれも限度がある、と言うことだろう。
……流石に発電機等を一から作れる人はそういないからな。
農業をしていた場所では鍬等しか使っていなかったし、工業もそれに準じていた。
来訪者がもたらす知識のメリットは、そこまで強くは感じられない。だが、それでもこの世界にとっては十分過ぎるものなのだろう。
また来訪者が持つという能力を含めればそれは多大だ。
……俺に何ができるのか。
周囲を見渡せば自分と同じような才能の高校生。なんら変わりのない。知識があるわけでも技術があるわけでもない。
その様な自分に一体何ができるのか。
そしてヒメは何をさせたいのか。
「入っていいってよー」
笑顔で駆ける外見ロリの言葉で、シリアス思考は瞬時に宇宙の彼方に飛んで行ってしまう。
「随分とあっさりだな。少しもめているようだったが」
「サボってたから怒っちゃった。だから強く言っちゃったんだよ。サボるなら、真剣に遊びなさい! て」
「うん。お前が怒り慣れていないことは十分に分かった」
サボることを後押しする人間が怒るなんて言ってはいけない。
「んー。それにも理由があるんだけど。今説明するより中に入ってからね」
言うと同時、ヒメはこちらの手を引っ張る。
走り出す彼女のスピードに合わせてこちらも先へ進む。
「……何お嬢様に手を持って頂いてんだ? あ? 切り落とすぞ」
「引っ張りプレイ? それとぉもペット扱いでお散歩プレイ?」
どうして変態と言うのはすぐに湧いてくるのだろうか。
『はぁ……はぁ……幼女の生感触……』
変態怨霊に至ってはすでに神経を乗っ取れているようで、身の危険どころではない。
その原因のヒメはと言えば、
「~♪」
上機嫌、と一目でわかる笑顔をしていた。
……罰が当たればいいのに。
何となく幸樹は呪ってみる。
しかし何かが起こることも当然なく、門のすぐそばまで来た。
「ついに、か」
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