第7話 失楽園のカースト国3

 顔を押さえてくる幸樹の手から、ヒメはドロッとした水分を感じた。


「……なんか脂汗かいてない?」


 なぜ今その様な物をかいたのか、理解できないが、


「……気のせいだ」


 触れて欲しくなさそうに明後日の方向を見ているので、そのままにしておく。


「それで、どうしてそんな。しかも感情とか内面的なことを聞いたんだ?」

「そのことが、来訪者の特徴だから」


 と言ったが、それが来訪者全員に当てはまるわけではない。

 来訪者とは、別段珍しいものではなかった。あの声が聞こえる以前からもあり、時期や周期、人種や性別など全てにおいてバラバラであった。

 ただ一つ、共通していることは、ヒメらがいる世界には存在しえない物を所持していること。


 ……幸樹だと、着ている服がわかりやすいよね。


 見たこともない服装。形状や素材もヒメの知識の中にはない。幸樹がいない中でムーマにも確認をしたが、世界を回ったムーマでさえ、見たことはなかった。

 ならばそれは異界の物であり、それを所持しているのは来訪者と言うことになる。

 もちろん、道具だけでなく思想や技術などもあり、来訪者がもたらすものは様々だ。だからこそ来訪者がもたらす情報は絶大であり、国家単位で欲しがる。

それを利用して来訪者のふりをし、間者を送り込む場合があるが、それとてヒメ自身は承知であり、カースト国にも何度かその様な者は紛れ込んだ。


 ……バレたら、その度にムーマとアメちゃんが色々してたのよね。


 刺激が強いからと見せてはくれなかったが、アフターの間者は、痛みぃ痛みが欲しいぃ、とビフォーより明らかにおかしな扉を開いてた。禁断症状まで出させるなんてどのようなことが行われているのか、興味よりもそれを行える人間が周囲にいることに恐怖を覚えた。

今回の幸樹も同じになるかと思えたが、ヒメが聞いた声が伴った為にそれは免れた。

 だからこそ、彼がほぼ間違いなく来訪者であると断定した。そして彼ら来訪者の一部の人間に生じる事象を問うた。

 感情の変化を。


「全員じゃないんだけどね。能力をもらった人は感情に変化が生じるの」

「待て待て待て待て。え? 能力? 一気に胡散臭くなったんだが……能力とか、なんなの? 火とか出すの?」

「出せる人も居たみたい」

「……当たっちゃったよ」


 こちらを疑い深い目で幸樹は見てくるが、何を言ってもそれは現状解消することが出来ないのは理解できたので、ヒメは無視をした。


「私が生まれた時には世界に来訪者はいなかったみたい。だけど、文献で残っていて、その人達の特徴が、感情の一つを極端に薄くされて、違う感情を一つ強くされているってこと」


 感情と言っても様々だ。

 恐怖や幸福感なんかの主な要素はもちろんだが、限定的なモノまで含まれる。

 例を挙げるならば子供を愛する感情だ。

 愛する感情、と主軸の部分はそのままなのだが、特に子供を大好きで愛してしまったりその逆もある。


「そして私たちが不死になってからこの世界にやって来たのは把握しているだけで四人。ムーマに調べさせて分かったのは二人分。

 一人は人への興味が薄れ、快感を求める感情を強くされていた。

 もう一人は怒りを薄れさせられ、期待を持つことが強くなっていた」

「そいつらの能力って……」

「わからなかったみたい。感情の部分も出まかせかもしれないし」

「……ムーマ、使えないな」

「……ムーマ、使えないよね」

「なぁんか知らないけぇど、興奮してきたよぉおお!」


 使えない変態が大興奮なことでよろしいことだ。


「それでね。その能力、本人は使えることが分からないんだって。だから、もし使えて、それが人に危害を加えるようなものならそれ相応の対応しなきゃならなかったの」


 けれど今の所感情におかしな点はない。本人も自覚はないが大きく変化しているなんてことはないようだ。

 ならば今はそのままで、


「もうすぐ着くかぁらねぇ」


 すべきことをするのが先決、とヒメはこれからを見据える。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る