第2話 楽園のシシャ2

「あーやっと半分だ」

「正門の反対なんだからここは少し真面目にやれ」

「それもそうだけどよー」

「メリハリが無くなったら、『堕ちる』一方になるぞ」

「ッ⁉……わ、わーったよ。真面目にやるよ」

「そーしとけ」


 カーテンを引かれた窓の向こう。兵隊二人の会話をヒメは息を切らしながら聞いていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……重かっ……た……」


 呼吸が荒れた理由はヒメの隣にあった。

 右側を下に頭を着き、左腕が後頭部に回っている。さらに下半身がそれらを包むように垂れた状態でいる人。唐突に現れた男性だ。

 彼をヒメは窓から自室へ運び入れたのだ。その為に疲労した。


 ……あまり体を使ってないからな。


 もちろんそれもある。が、それよりも身体的な問題が強いだろう。

 けれどもそれを言ってもどうしようもない。それよりも、


「部屋に、入れちゃった……」


 この状況をどうするかが重要だった。

 思わず匿ってしまったがその後を考えていなかった。

 得体の知れない、しかも男性を自室に入れてしまったのだ。

男性ならお父様や使用人が入ったことはあった。しかしお父様は当然として使用人の人も昔からの関係だ。もはや身内と同じだ。

 だが彼は違う。身内でもなければ知り合いでもない。赤の他人だ。ましてや突然に現れた不審な相手。


「どうしよう……」


 男性の素性もそうだが助けた理由も不確かだった。自分で選んだことだが分からない。

 動機となったのはやはりあの声。けれどもどうして信じようと思ったのか。

 摩訶不思議な現象。何を頼まれたのか、それすらも分からない要望。

 だけれども頼まれた対象は男性だと思えた。更に声の通りに頼まれてやろうと考えた。

 それは奇奇怪怪な事象だからかもしれない。

 自分の――自分達の現状がそれを信じさせる理由になったのだろう。ヒメはそう感じる。


「とりあえず――」


 言いながらヒメは立ち上がる。そして、


「寝よ」


 徹夜で天上の模様を数えていて軽く眠かったが、久しぶりに体を動かしたからだろうか。急激に眠くなってしまった。

 このまま睡眠に入っても良かった。しかし流石に男性をそのまま放置は怖いので、


「――――これでよしっと」


 対処をして、ヒメはベッドに入り、眠った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る