旅の支度

 オルレラでの大仕事を終え、大事な役割を果たしたツバキは、その疲労を癒して目を覚ます。入れ替わりで眠りについてしまったアカリ達を気にしつつも、ツバキは広間の椅子に腰掛ける。


「それで?この人達の事を聞いても?」


 ミアとツクヨと共にホルタートへ来たツバキは早々に眠ってしまい、その間に起きた出来事を何も知らない。事情を知らなければ、当然こういう展開になるだろうと予想していたミアは、自分もさっさと寝て仕舞えば良かったと、少し後悔していた。


 「あぁ・・・まぁ、そうなるよな。仕方ない・・・実はな」


 彼女はツバキが寝ている間に起きた出来事と、これからの予定について簡潔に説明した。


 新たな事情を抱えた旅のお供を加えた訳だが、それによってオスカーや子供達から託された思いの遅延に繋がるということはなかった。


 アカリ達の目的は、記憶を取り戻し自分が何者で何処からやって来たのか。何故ホルタートの街で繭に包まれていたのか。謂わば記憶探しの旅となる。


 一人で巡るにはあまりに物騒な世界を彼らと共に巡り、見たものや聞いたもの、感じたもの全てを頼りに、記憶を取り戻そうというのだ。


 なので、これと言って何処かへ向かいたいという目的地などはなく、基本的にシン達の旅に同行するだけの形となっている。


 「そうか、記憶が・・・。もうちょっと世界の綺麗なものとか見せてやりたいところだけどよぉ・・・」


 ツバキ自身も、本当の親が誰なのか、本当の故郷が何処なのか分からない身である為か、アカリ達の境遇を知り、共感する様子を窺わせた。


 「あぁ。これからアタシらが目指す場所で目にするものは、恐らく彼女らには刺激が強いものになるかもしれないな。だがそれでも、優先事項は変わらねぇ・・・」


 「ありがとう、ミア・・・」


 「あ?どうした突然。さっきからいつものアンタらしくないじゃないか」


 「・・・俺を何だと思ってるんだ・・・?こういう日だってあるさ。それに寝起きで、まだ頭が・・・」


 眠そうな顔で大きな欠伸をしたツバキ。まだ疲れが抜けてないのかと確認するミアに、首を横に振って応えた彼は安心できる環境下にあることで緊張も解れたのか、腹を鳴らして何か食べるものはあるかとミアに尋ねる。


 しかし、ツクヨが宿の主人に確認した通り、部屋での飲食は禁止されており、持ち込みもできない。それ故、今シン達は昼食を取りに行ってる事をツバキに伝え、彼らが帰り次第次はミア達が出かける。


 その時に一緒に行こうとミアに誘われたツバキはそれを承諾し、それまでの間外出の準備をしながら目を覚まさせようと、洗面所へと向かっていった。


 ツバキが身支度を整えて間も無く、シンとツクヨが昼食を済ませて宿の部屋へ帰って来た。ミアは仮眠をとっていたアカリと紅葉を起こし、ツバキを連れて昼食取りにホルタートの街へて向かった。


 特に食にこだわりのなかった彼女らは、美味そうな匂いに誘われるがまま店に足を運び、食事を済ませる。それほど時間を掛けることなくシン達の元へと戻ってきた一行は、明日の出発の時間までそれぞれ自由行動とすることにした。


 街や周辺の事情を少しでも調べておく為、戦闘を行えるシンとミア、そしてツクヨはそれぞれ一人は宿に残り、ツバキやアカリ達の護衛に残ることを決め、各々WoFユーザーの機能であるメッセージで連絡を取り合うことにした。


 先に自由行動へ移ったのは、シンとツクヨで、街のギルドを訪れ受注できるクエストをこなしたり、街の人々に話を聞きながら住人達からの依頼を行った。


 時折ミアと交代しながら、外を見て歩きたいというツバキやアカリ達も連れ、リナムルやアークシティについての情報を集めて行く中で、ツバキも新たな発明品を作っていた。


 それはオルレラのオスカーの能力から発想を得たもので、幻術の類を魔石を使って再現するガジェットだった。


 部品や魔石は少し値が張ったが、万が一シン達のいないところで戦闘に陥った際、ある程度の時間稼ぎくらいは出来る様になっただろう。


 ミアは銃弾の補充や、錬金術に使う素材などを買い込み、シンとツクヨはクエストの報酬品や街の武具屋で、現状最も優れたものを買い揃えた。


 旅の準備や情報収集で時間はあっという間に過ぎていき、一同揃って宿屋で一夜を明かすと、いよいよリナムルへ向かう馬車の出発の時間となった。

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