暫くぶりの顔

 ホルタートの中央広場に集まったのは、他国や様々な街が組織する組合の馬車の数々だった。リナムルへ持っていく商品や、取引に扱う代物が沢山積んである。


 シン達は冒険者であることを説明すると、彼らの護衛として載せてもらえる事になったのだった。街から街へと移動する際にも、魔物は彷徨き襲ってくる。


 ギルドに護衛を頼めば、それなりに金が掛かるもの。それを目的地まで乗せていくという条件で、格安であったりタダで済ませることが出来るのだ。商人達からしても願ったり叶ったりだった。


 ただ、この方法は正規のギルドへの依頼とは違い、冒険者の力量は保証されていない。それでもシン達を雇ってくれたのは、グラン・ヴァーグからのレースで結果を残したという名誉があったからだった。


 「さて、それじゃぁ冒険者さん方、お任せします」


 シン達の他にも、既に何処かで乗せて来たであろう冒険者も乗っていた。皆それなりの武器や防具を身に纏い、屈強な者達も多くいた。


 その中に、一際大きな屈強な男がいた。その姿は、シン達にとって久々に見る姿だった。


 「おい!あれって・・・」


 いち早く気がついたのはミアだった。忘れもしない、それは大海原を渡るレースにて大きな障害の一つとなっていた、三大海賊が一つ。キングが船長を務めていたシー・ギャングで最優の幹部と称されていた四人の内の一人、キングを守る最優の盾として彼を守っていた“ダラーヒム“だったのだ。


 「ん?おぉ!お前らはッ・・・。誰だっけか・・・?」


 「覚えてないのか!?」


 思わず定番となるツッコミを入れてしまうツクヨ。ダラーヒムもその反応を見られて満足といった表情で頷くと、馬車から降りて彼らの方へと歩み寄ってきた。


 「冗談だ!ワハハハハッ!!それにしても、お前らどうしてこんなところに?」


 「それはこっちのセリフだ。シー・ギャングって海や裏世界が生業なんじゃないのか?」


 「あん?そりゃぁそうだけどよぉ。それだけじゃ組織としての支持は得られねぇってモンだ。表舞台でもしっかり働かねぇとな」


 海賊やギャングと呼ばれる彼の言葉とは思えぬ発言に、シン達は思わずキョトンとした表情をしてしまった。考えてもみれば、キングの仕切る組織は様々な国や多くの権力者、力を持つ者達との繋がりがある。


 それを強固なものにする為にも、信用や実績といったものも重要になってくるに違いない。彼がここにいるのも、その一つということなのだろう。


 「この組合の馬車に乗ってたってことは、アンタの行き先は・・・」


 「お?・・・あぁ、何だお前らも一緒か?俺ぁボスに頼まれて、 リナムルで珍しい木を手に入れるところだ。何でも、俺達の足でもある船にも、もってこいの性質があるらしい。そこの坊ちゃんなら知ってたかい?」


 「誰が坊ちゃんだッ!!ガキ扱いすんじゃねぇ!・・・ただ、アンタが動いてるってことは、じじぃも・・・」


 「だろうな。海賊達の間でも噂になってるくらいだ。造船技師としての腕も鳴るってモンだろうよぉ」


 ウィリアムの元を離れても、ツバキの中では彼と技師の弟子達のことを忘れることはないだろう。まして彼らの元を旅立ってから間もないツバキの心には、まだその存在が大きく影響を及ぼしているのだろう。


 元気でいるだろうか。仕事は上手くいってるだろうか。そんなことが心の何処かでいつも彼を見守っている。心配している訳ではない。ただウィリアムの元で過ごしてきた日々が、ツバキを強い人間へと育てたのだろう。


 「そっか・・・。まぁ、アイツらじゃぁそのご立派な性質も活かしきれねぇだろうけどな!」


 僅かに見せた暗い表情に、シン達は故郷が恋しくなったかと心配したが、彼はそんな思いを鼻で笑い飛ばす。


 「今じゃぁお前も有名人だからな!船乗り達の間じゃ知らねぇモンはいないって程にな。それだけあのレースの終盤に活躍したボード状の乗り物の注目度がすげぇってこった。ボスも気に入ってたぜ」


 「それじゃぁその内、ギャングからスカウトされちゃうかもね」


 「残念ながら、誰かのお抱えになる気はねぇぜ?」


 レースの時は順位を競うライバル同士だったが、ここではそんな関係もない。それにシン達はキングのお気に入りとして、シー・ギャングの幹部達にも伝わっている。無闇に襲ってくるということはないだろう。


 「どうせなら一緒に行くかぁ?どの道俺ぁリナムルで採れる植物の調査も兼ねてる。ギャング組織として表立って動いてる訳じゃないから、他の連中も連れてきてないしな」


 「ギャングの幹部が、随分と不用心だな?」


 「ハッ!俺をやろうったって、そう簡単にはいかねぇんだわ」


 そう言いながら、ダラーヒムはシン達の乗る馬車へと乗り込み、同行する事となった。

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