異変への慣れ
話し合いの結果、彼はシン達と共に行動することを決める。やはり一人は不安だったようだ。こんな状況の中、とてもライブに集中できるとは思えないのだという。
「よし、それじゃぁもっと周囲を確認しに行こう。・・・何て呼べばいい?あぁ、本名じゃなくてキャラクターの名前を・・・」
行動を共にするのであれば、アンタや貴方では咄嗟の時に合図を送りづらいこともあるだろう。彼がシンの問いに対し答えようと、少し戸惑った後に口を開くが、彼の名前は横にいるにぃなの声で知らされる。
「マキナ、でしょ?」
「なっ何で名前を・・・!?」
驚いたように目を見開き、にぃなの方を見つめる彼。一体何故、初対面の彼女が自分のWoFキャラクターの名を知っているのかと、わなわなとした様子を見せる。
「ごめんね。さっきキャラクターへの変身の仕方を教える時に、キャラクターの名前見ちゃったの」
「な・・・何だ、そういう事か」
張り詰めていたかのように大きな溜息を吐き、がっくりと肩を落とすマキナという男。そんな彼の肩をバシッと叩き、笑顔で雰囲気を変えるにぃな。
「初めて会ったのに、名前知ってる訳ないじゃ〜ん!何考えてたの?」
「い、いやそれは・・・」
彼女の悪い癖が出ている。シンと初めて会った時も、徐々にではあるがいつもの明るい性格が出ていた。と、いうよりも揶揄い癖のようなものだろう。
ただ、にぃなの場合本当に根っからの明るさという訳ではなく、自身の不安やネガティブな部分を隠そうとする時に、そういった逆の行動を取りやすい。今までの経験から、無意識にそれが身についてしまっているのだ。
「ほら、ライブまでに色々見ておかないと、だろ?早く他を見て回ろう」
「は〜い」
「宜しくお願いします!」
シンとにぃなは、先ずはライブまでのひと時の間、マキナとパーティーを組むこととなった。
次の場所といっても、行く宛はない。ただ横浜のパンフレットにある、赤レンガ倉庫周辺の名所を回ることにした。
あいも変わらずモンスターの数は多く、その光景に最初マキナは足が竦んでいたが、シンとにぃなの支援のおかげでモンスターを倒す感覚を、その身体に刻み込んでいく。
次第に彼も、一人でモンスターを倒せるようになり、WoFを遊んでいた時の感覚が板についてきた。
「慣れてきましたよ!初めはリアルでこんな事するのに気が引けてたけど、やってみるとゲームとそんな変わらないですね!」
「調子に乗らないのぉ!噛まれたり引っ掻かれたら、本当に痛いんだからねぇ!?」
遠距離攻撃がメインの彼は、殆どダメージを貰う機会はなかった。ただそれは、モンスターがまだそれほど強力なものでないからだ。シン達が戦ってきたような変異種が現れれば、こうも簡単にはいかないだろう。
どっちにしろ、そんなものが現れれば蒼空の助けも必要となるかもしれない。本戦を前に負傷することは避けたい彼らは、変異種や強力なモンスターを見つけた時は、すぐにその場を離れるという認識で統一するのだった。
そんな彼らの奮闘を、遠くから見ていた者達がいた。
「なぁ!俺らの他にもアレが見える人達がいる!」
「本当か!?じゃぁ合流して協力してもらった方がッ・・・」
横浜市開港記念会館、通称ジャックの塔。その上層部の見晴らしのいい所から、一人の男が目を閉じて、何やら模様のようなものが描かれた紙の上に手のひらを着き、しゃがみこんでいる。
一緒にいるもう一人の男が双眼鏡を使い、周囲の様子を見張るように眺めながら、男の見つけた“見える者達“との協力を提案するが、突如送られてきたメッセージに目を奪われ、言葉を途中で中断する。
「・・・?どしたの?」
しゃがんでいた男が、突然喋らなくなった男の方へ振り返り、片目を開けてその様子を伺う。
「あぁ・・・向こうも誰か見つけたみたいだけどよぉ。接触は避けようってさ」
「えぇ〜、何でさ」
「前の件があるからだろ。どんな奴かも知らないで近づくのは危ないってこったろ?」
「そっか・・・。でもさ、人がどんどん増えてきて、その度にモンスターが増えていったら、俺らだけじゃ守れないんじゃない?」
立っている方の男は、送られてきたメッセージに返信すると、もう一人の男の言う、何かを守るという事について自分の意見を述べた。
「人が増えりゃぁ同じ目的で共闘することもあんだろ。それに・・・前みたいに、あのすげぇ強い人が来てくれっかもしんないし。やばそうだったら助けを求めりゃ良くない?」
「何か楽観的過ぎやしませんかねぇ〜・・・」
「俺もまたあんな面倒は御免なんですよぉ〜。それに多数決で接触は無しってことで決まtちゃいましたよぉ・・・」
街の彼方此方にモンスターが蔓延っている中、呑気な話をしている彼らは何者なのか。そして、彼らと連絡を取り合っているもう一人の仲間は、どうやら地上で別行動をする中、マキナと同じように新たな覚醒者を見つけたのだろうか。
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