はじめてのおつかい
最後にイヅツに案内された場所は、彼の他にWoFのユーザーが数人集まるやや開けた広場だった。そこが彼らの部屋という訳ではないが、皆情報を共有する際はここに集まるのだという。
そこでシンは、イヅツの仲間達を紹介される。その場に居たのは彼を除き四人のユーザーだった。彼らもまた異変に巻き込まれ、何も分からぬまま組織の手引きを受けたのだという。
男性キャラクターの姿が二人おり、その内の一人が“Ashアッシュ“という、赤い髪色のウルフカットが印象的な、鋭い目つきをした男。クラスはガンナーで、赤黒いロングコートを羽織り革をベースにした服装をしている、クールなキャラクターデザインをしている。
もう一人の男は“ハル“といい、真ん中分けの髪にハットを被り、淡い色を基調とした優しい印象を受ける。クラスは吟遊詩人らしく、楽器ケースのようなものを背負っている。社交的でおっとりとした話し方をする、誰とでも距離を縮められそうな印象を与える雰囲気を醸し出している。
残りの二人は女性キャラクターで、一人は“にぃな“という如何にもオタサーの姫といった感じの容姿をしていた。白い可愛らしい魔術師のようなコートを羽織り、動物の耳のついたフードを被っている。クラスはヒーラー。パーティ構成を考える上でも、居るといないとでははっきりとした差がでる重要なクラスだろう。
そして最後の一人は、そんな彼女と対比になるような黒いロングドレスに不気味な装飾や、骨のデザインが施されている。僅かに見えるその肌は色白で、目の周りはナチュラルに黒いクマができている。クラスは見た目通りと言わんばかりのネクロマンサー。
「まぁ、他にも同じ境遇の仲間はいるんだが、今はみんな出払ってるのかな?」
粗方の紹介を終えたイヅツが、他の者達がどこへ行っているのかを、最も会話が上手そうなハルに質問する。
「みんな任務に出かけてるよ。僕達は丁度休憩中だ」
「そうか。それじゃぁそれ程忙しいって訳じゃないんだな。シン、暫くは自由行動にしよう。また何かあればWoFのメッセージ機能を使って連絡する。組織の人間達も、研究員達は比較的変な奴もいないから、今の内に色々と聞いてみるといい」
そういうとイヅツは、彼らと共に部屋に残り、シンは施設内を自由に見て回ることにした。
とは言ったものの、出入りできる部屋は限られており、それ程重要そうな情報は得られそうにない。既に紹介された部屋を見て回るのもいいが、シンは東京のセントラルシティ襲撃について気になり、施設へ来たポータルへと向かう。
すると、通路を歩いていたシンは、急足でどこかへ向かおうとしている研究員に話しかけられる。
「お、丁度いいところに・・・」
「・・・?」
「お前は確かスペクターさんと一緒にいた・・・」
「あぁ・・・そうだけど・・・」
「少し頼まれてくれないか?お前は東京という地に詳しいんだろ?」
研究員の話では、東京襲撃で新たなサンプルが手に入ったらしく、それを現地に行って取ってきて欲しいというものだった。
どうせやる事も決まってなく、東京の様子が気になっていたシンはこれを好都合と、そのお使いを引き受けることにした。研究員はポータルがどこにあるのかをシンに説明して、足早にその場を去っていった。
シンは言われた通り通路を進み、東京から来たポータルへ向かう。研究施設へ入って来た時と同様、ポータルとなっている扉の横には見張りの者が立っていた。
「待て。お前は・・・この世界の者か。要件はなんだ?」
「依頼を頼まれたんだ。現地でサンプルが手に入ったから、取りに行って欲しいって・・・」
事情を見張りの男に説明すると、意外にもあっさりと道を開けてくれた。ポータルの装置を起動し、見張りの男が顎で通れと指示を出す。
シンは再び現実世界の扉を通り、東京へと戻る。ポータルを抜けた先は、入って来た場所と同じだった。そこには施設内と同じく、前にも見た顔が数人立っていた。
一様に視線を向けられたが、彼らはシンに話しかける訳でも止める訳でもなく、すんなりと彼を通し作業へと戻った。
シンは早速研究員の男から言い渡された現場の住所を、スマートフォンのナビアプリに入力する。そしてナビを見ながらシンは、建物の合間を軽い身体で駆け抜けていく。
目的の地点へ到達すると、そこは大きな建物の地下にある駐車場らしい。しかし、入口らしき扉には認証用のモニターが設置されており、強引に開けようものなら警報が鳴るようになっている。
「おいおい、これじゃぁ入れなッ・・・!」
現実世界の光景を目の当たりにしてると、時折自分の身体がWoFのキャラクターを投影していることを忘れてしまう。通常なら認証コードやハッキングが必要になるところだが、今のシンにはその必要はない。
外から中を覗けるスペースさえあれば、影のスキルを使って通りぬけることが出来る。
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