繋がれた首輪
暫く手を動かした後、スペクターは拾い上げた頭部から腕を引き抜くと、腕についた血液を振り払いまるでゴミでも捨てるかのように頭部を投げ捨てた。
残されたもう一人の男は、近づいて来るスペクターとその奇行に恐怖値がオーバーフローしたのか、失禁したままその場で気を失ってしまった。
無理もないことだ。人が目の前で死ぬという状況自体、多くの人間が経験することではなく、心が対応しきれない人もいるだろう。身体はいくらでも鍛えられるが、内臓や心はそうもいかない。
「仲間はいないようだ。・・・こいつらの肉体は・・・いらねぇか」
するとスペクターは、懐から小型の機械を取り出し、倒れる男の側に放る。機械は空中で形を変え、蜘蛛のように足を生やし男のスマートフォンを探し出す。
そしてコードのようなものを繋ぐと、恐らく個人情報やWoFのデータを抜き取っているのだろう。アサシンギルドを襲撃した“ノイズ“と呼んでいる人物が、同じような事を建設中の建物内でやっていた。
倒れた男の身体からは、WoFのキャラクターデータの投影が剥がれ、生身の肉体が暴かれた。スペクターは倒れた男の側でしゃがみ、機械の蜘蛛から足を一本だけ外し、男の喉を深く裂いた。
「後始末もしておくかねぇとなぁ・・・」
最後の生き残りに止めを刺し終えたスペクターは、気だるそうに立ち上がる。そして何を眺めているのか、周囲を確認するように見渡すと、突然逃げ出したWoFのユーザー達の身体が、ノイズが走ったかのように消失した。
遅れて現場にやってきたイヅツが、一人で路地裏に突っ立っているスペクターの元に到着する。
「あっ・・・あいつは・・・?」
スペクターはケロッとした様子で振り返り、イヅツの質問に快く答えた。
「あぁ、もう終わったよ。・・・それより、お前にはもうちょっと経験が必要だな。あんなのに苦戦されちゃぁ、生かしておく価値がねぇからな」
彼の恐ろしい言葉に背筋が凍る。そして、彼の腕から蒸発するように消えていく、恐らく血と思われるものを目にして、“終わった“と言うことが何を意味していたのかを悟る。
こうして初任務で得た彼らのデータは、研究施設でモンスターの中へと送り込まれたのだ。
結果、シンが目撃した実験とは違い失敗には終わらなかったものの、成功とも判断できない代物となり、要観察ということとなったのだという。
実験の結果はイヅツらには告げられなかった、その後ユーザーのデータをインストール出来たモンスターを、施設内で見かけることはなかったそうだ。
「これが俺の知るところだ・・・」
「何でそんな実験をする経緯に至ったんだ・・・?」
重苦しい話をしていると、いつの間に近づいたのか、背後からスペクターの声がして二人は飛び上がるほど驚いた。
「お前も必要なくなれば、あぁなるかもなぁ」
それだけを言い残し、スペクターは二人の元を去り施設の奥の方へと歩いて行く。
「どこへ?」
「俺ぁ忙しくてねぇ・・・。お前は新入りの面倒を見ておけよ?」
スペクターが二人から離れたのは、彼らにとって好都合だった。今の内に組織のことを話し、どんな研究や実験が行われているのか、イヅツが許可されているレベルで、施設の案内を始める。
「謂わば俺達は、首輪をつけられた犬も同然だ。自由は無いし、逃げ出すことも出来ない」
これまでの話や現状を再度考えると、本当にこんなところから解放される未来があるのだろうかと、シンの心は真っ黒な不安に包まれていた。
「だがずっとこのままという訳でもない。ちゃんと任務や使いっ走りを遂行すりゃぁ、それなりに信用も生まれてくる。その証拠に・・・」
そういうとイヅツは、扉横に取り付けられた装置の前に、自らのスマートフォンをかざし、画面を読み取らせる。すると、認証が完了したのか、どこか安心する機械音の後に、ランプが緑色に変わる。
「ロックの解除コードだ。重要な機密事項のある場所へは入れないが、ある程度行動制限が解除される」
そう言いながら開いた自動ドアを進み、シンを施設の奥へと案内する。彼のいう通り、施設内を見渡しても、通路から見えるものは限られているようだ。
何か有益な情報を得られた訳ではないが、少なくともこの施設にいる組織の規模が何となくわかった。これが全部ではないだろうが、人員の規模的には東京にあったアサシンギルドと然程変わらない。
施設内は全てを歩いた訳ではないから分からないが、それなりに大きなものであることは確かだ。
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