冒険者が始めに訪れる街、パルディアを目指すシンとミア。


道中、シンは自分の知らないWoFの事について、ミアにいろいろと尋ねた。


初めに言われたのが、彼女自身もこの境遇になってから日が浅く、知識としてはシンとあまり変わらないということ。


ログアウトはいつものゲームのように出来るが、現実世界では慎が襲われたようにモンスターに狙われるという事。


現実世界での戦闘は、スマホからWoFにログインし、ゲーム内に逃げるか、自分のキャラクターを現実世界に呼び出して戦わせる事が出来るという。


但し、その際は本体は勿論、キャラクターが倒されても死んでしまう。


現実世界に戻るならレベルを上げてからにしないと、まともに戦えないのだと彼女は言った。


ゲーム内の事に関して得た情報といえば、ワールドマップ自体は然程変化はないが、国や街、村やダンジョンなどの名称が変わっているという事。


恐らく他にも違う点は出てくるだろうが、それは実際に目の当たりにしてみない事には分からない事だ。



街への道中はモンスターも出たが、始めに戦ったスケルトンに比べれば相手にならないレベルだった。


ドロップした素材やアイテムは、街でのクエストで使う物もあるので、面倒ではあったが経験値稼ぎのついでに戦闘も行っていった。


そのうちに街が見えてきた。


「街に着いたらまずは、一般のクエストを受けるといい。 冒険者ギルドのクエストはその後だ」


一般のクエストとは、街の人が依頼するクエストのことで、比較的に安全な内容が殆ど。


お使いや人探し、特定のアイテムの納品などがその内容である。


「始めから討伐のクエストとかじゃ都合悪いのか? そっちの方が早いと思うけど・・・」


プレイスタイルは人それぞれなので、何が正解なんて事はない。 戦闘が好きで始める人も少なくないだろう。


「クエストで貰えるのは、何も金や経験値だけじゃない。 そこでしか手に入らない装備や、珍しいアイテムなどが報酬で得られる事もある。 クエストの報酬にも何か変化があるかもしれないしな」


街の名称が変わっていればクエストの内容も変わっているかもしれない、それに装備が貰えれば買う浪費を防げる。


「それに今のアンタは一文無しだろ? 装備もなければ宿に泊まる金もないんじゃな〜」


「そこは自腹なのか」


考えてもいなかったが、食事や睡眠はどうなるんだろう。


ゲームでは、食事を取ることでステータスアップや付与効果が得られ、睡眠は状態の回復が行えた。


「当然だ、まぁフレンドとパーティにはなっておこう。 メッセージも送れるしな」


そういうと、手際よくフレンド申請とパーティの申請が送られてきた。


「ん? 一緒にクエストをやるんじゃないのか?」


クエストは複数人で行えるものが多く、当然1人でやるよりも効率的で楽ではある。


「一緒にやっても良いが、報酬は分配されるぞ? それじゃあアンタの装備も買えないかもしれないしアイテムも揃えられないんじゃないか?」


複数人でクエストを行う場合の注意として、報酬金と経験値がパーティに分配される事、報酬限定の装備やアイテムは、依頼を受けたプレイヤーのみに渡される。


「アタシはもうこの街のクエストは一通り終わらせてる。 それに集めておきたいアイテムもあるんでな、しばらく別行動しよう。

何かあったらメッセージで連絡してくれ」


そう言い残すと彼女は歩いていってしまった。


「わかった。 一通りクエストが済んだら連絡するよ!」


彼の声が聞こえると、彼女は背を向けたまま手を振った。




一般のクエストは、広場の掲示板だったり、パブやお店、宿屋なんかにもあったりする。


彼はまず広場の掲示板を見に行く事にした。


人通りの多い場所なので、結構な数の依頼書が貼られている。


どれが良いだの悪いだの選んでる時間が勿体ないので、端からやっていく事にした。


流石、街の人の依頼といったところか。

かなり日常的な依頼が多く、彼は荷物運びや人を呼んでくる依頼、買い物の代理だったり街付近のフィールドで採取する納品依頼、子供のお守りなど、ゲームの中だとは思えない時間を過ごした。


「にぃちゃん! ボールいったよ!」


彼にボールが当たる。

ボケっとするなと子供に悪態を突かれた。


あまりに平穏な日常に気が抜けてしまう。

子供の足を見ると、転んで擦りむいたのか、少し血が滲んでいた。


不思議な感覚だった。

ただのNPCであるはずの彼等だが、時間が経てばお腹が減り食事をとるし、夜になれば眠くなり、怪我をすれば痛がって傷からは血も出る。


「人間と変わらないじゃないか・・・」


ゲームをしていた時との違いで、特にシンの関心を引いたのは、NPC達の人らしさだった。



数日かけて一般クエストをひたすら受けて周り、消化していった。


その過程でレベルが上がり、ステータスが上がったりスキルを覚えたりもした。


アサシンのスキル、影の中を移動できるスキル。効果時間は短く、人一人分の範囲なので、このスキル単体ではダメージを出せないが、敵の背後に周りバックアタックを取ったり、弱点部位への素早い移動が可能になる。


他にも、1度取ってしまえば永続的に効果を得られるパッシブスキルも獲得した。


クラスにより伸びるステータスや効果が変わり、彼のクラスであるアサシンはスピードが特に伸びやすい。


彼が初めての戦闘の時驚いたのは、今までゲームで動いていた身体能力をイメージしてバックステップをしたが、ステータスも能力の解放も行われていない初期の状態だったので、イメージに身体がついていけなかったからだ。


1度ハイスペックに慣れてしまうと、急に初期状態になった時にギャップで不便に感じてしまう。


彼は正にその心境だった。



一般のクエストが終わり、次は冒険者ギルドのクエストを受ける。


冒険者ギルドのクエストは、戦闘の依頼が殆どである。


故にある程度のレベルや装備でないと、苦戦を強いられてしまう。


ゲームの時はそれでも良かったのかもしれない。

簡単過ぎる戦闘は、折角の魅力的なバトルを作業的にしてしまう。


だが、今の彼等はダメージを受ければ痛みもあるし、HPが0になればただの戦闘不能では済まないかもしれない。


リスポーンなんてものも無いかもしれない。

それを確かめることは、少なくとも今の彼にはできない、現実世界で死んでみると同じ感覚なのだから。


だから戦闘を行う際は、不測の事態も想定し、推奨レベルよりも高いレベルで、より良い装備で、万全で行わなくてはならない。




と、気を張って挑んだが。


「少し準備し過ぎたな・・・」


一般クエストの報酬で得た経験値に加え、新しく新調した装備品のおかげで、攻撃を受けても殆どダメージが入らなくてなっていた。


討伐クエストを行うついでに、彼はスキルの使い心地や有効な使い方を模索した戦闘をしていった。


スキルには熟練度があり、使った回数などで効果時間の延長や範囲拡大、威力アップなどが望める。


こうして特に苦戦もなく、冒険者ギルドのクエストもこなした。


別行動をしていたミアにも、時折りメッセージで進行状況なんかも送ったりしていて、一般クエストとギルドクエストを一通り終えた事もあり、何日かぶりに近々合流することになった。



今日も討伐クエストをいくらかこなし、行き着けとなりつつあるパブで休憩していた。


「おう! クエスト熱心の兄ちゃん! 今日も来てたのかい」


一般クエストをやってる内に街の住人達の友好度が上がり、よそよそしいテキストではなく、こちらのセリフに合わせるようなどこか心のある会話ができるまでになった。


「アンタこそ毎回見かけるな」


無意識にシンも、感情を込めて言葉を返すようになっていた。


「俺ぁ常連だからな! ハハハ!」


そう言うと、気さくなおじさんはシンの隣のカウンター席へと着き、酒を頼んだ。


「いつものね!」

「あいよ」


少しアルコールが回り、気分が高揚してきた頃、店の端の方で店主と、ボロボロのローブを羽織った子供との会話が聞こえてきた。


「もうウチには来ないでくれよ。 客が寄り付かなくなっちまう」


「ぁ・・・ ぅ・・・!」


聞こえないだけなのか、喋れないのだろうか、子供の声は聞き取れなかった。


「依頼なら冒険者ギルドに出した方がいい。ウチでは貼れないよ、悪いね」


「ぅ・・・! ぅっ!」


店主は何かを伝えようとすると子供を外へ追いやった。


「ん? どうした? 兄ちゃん」


隣で飲んでいたおじさんが、シンの視線の先を追う。


「あぁ、あの子か・・・」


おじさんは少し悲しげにため息をついた。


「知ってるのか?」


暫くこの街で活動してきたが、あんな子供を見たのは初めてだった。


「夜になると、あーやって色んな店や掲示板に貼り紙をお願いしに来るんだよ」


夜中にあんな格好の子供が一人で。

何処と無く普通ではない事情があるのだと分かる。


「貼り紙くらい良いんじゃないか? クエストなんだろう? きっと」


普通ならそれぐらいに思うような事だ。

シンにも、何故店主があの子を追いやったのか不思議だった。


何度かこの店には来てるが、店主がそんなに悪い人のようには思えない。


「兄ちゃん、知らねぇのかい?」


おじさんが話の肴に何か話しだしたそうなのが、ヒシヒシと伝わってきた。


「なんだよ」


自分だけが知らないような話、そういうモノに人は興味をそそられる。


「あの子のクエストを受けた奴ぁみんな・・・」


思わず唾を飲み込んだ。


「誰一人帰って来ねぇんだ」

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