マスター、です。
マスター──世界を統べる十三人。
国家と言う枠組みを取り払い、十三個の地区として分けられた世界。その地区を統べる者。
そのマスターが代わる。それが本当ならば大ニュースである。
「ど、どこのですか!?」
「第三」
「第三……って、ここじゃないですか!?」
第三地区。大昔アジアと呼ばれていたこの地域は、今や七十以上の州に分けられその全てが独立した政治機構を持っている。そしてその頂点に立つのがマスター。
国家と言う枠組みがあった当時で言えば、大統領や首相と言う呼び方が相応しい。しかしながら、その責任は大統領等の比ではない。これだけ広い世界を『たったの』十三に分け、そのトップ。どれだけの責任がその肩に乗っているのか、僕の様な小市民では考えが及ばない。
「ここのマスターよ」
「どこ情報ですか?」
そもそも、この情報は真実なのだろうか?
「それは……」
「それは?」
「ヒ・ミ・ツ」
「……」
完全に語尾にハートが付いていた。
「気持ち悪いです」等と言ってしまえば、僕の首が飛ぶ。
「ねぇ要。良い女の条件って何だと思う?」
「ちょっと僕にはわかりません」
「それはね、秘密よ。良い女は絶対に秘密を持っているのよ。あたしみたいにね」
「……はい」
マイクさん、あなたは男です。
そして、その気持ち悪いウインクを止めて下さい。僕を殺す気ですか?
「まっ、実際に代わるのは来月らしいから、そろそろ情報が公にされるんじゃないかしら」
「来月ですか」
それにしても、現第三地区マスター──ロベルト=
「あの、マイクさん」
「なーにー?」
「次のマスターは誰になるんです?」
「そんなの娘に決まってるじゃない」
「それはそうだと思うんですけど……」
世襲制──それがマスターの決め方。そんなの小学生でも知っている。
マスターが代わる際には常に議論に挙がるこの世襲制だが、今までこの方法が変えられた事は無い。
「確か相澤さんの娘さんって」
「あんたと同い年ね」
「その、大変失礼な話ですけど……」
「それ以上は言わなくてもわかるわ。実際にあたしもあんたと同じ意見よ。ただね、噂では相当なやり手らしいわよ」
「相当な、ですか?」
「ええ。曰く、第三地区七十以上の州知事全てが彼女を認めているとか」
「……信じられませんね」
「噂は噂よ。まっ、火のない所になんとやらとも言うし、あながち間違ってないかもしれないわね」
確かにその通りだ。
「まぁ、あたしらが色々と考えた所で何の意味もないんだし、そこまで深く考えなくて大丈夫よ。生活が一変するわけでもないし」
「それもそうですね。はい、お待たせしました」
出来上がったブレンドをマイクさんの前に置く。するとマイクさんが目を細め、カップを持ち上げた。
「良い薫りよねぇ。お肌が若返るわぁ」
うちのコーヒーにそんな効能はありません。
「ねぇ要」
「何ですか?」
「これはあたしの勘なんだけど」
「はい」
「あんたの生活は一変するかもね」
「……何ですか、それ?」
僕の生活が一変する? マスターが代わる事によって? 僕の様な小市民の生活が?
それこそ有り得ない。
「何となく、今不意にそう思っただけよ」
「そんな根拠のない」
「あら? 昔から女の勘は当たるって言うじゃない」
「……」
あなたは男なんです。
その言葉を呑み込んで、マイクさんに聞こえない様に溜め息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます