情報は武器、です。
「ジル=レイジャーは会社が倒産する寸前『レリック』から多額の借金をしています」
仕事の前に、アーリス先生による情報提供が開始された。
「まーた、レリック絡みか」
『レリック』
高利の金貸しや、やばめの薬の密売、更には銃火器の所有。つまりは悪い事ばかりして生きてる方々。
確か昔は、やくざとかギャングとかそんな呼び方をされていたはずだ。
「ジルさんがレリックからお金を借りた理由は? 会社の建て直しの為?」
「それが最初の理由でした。しかし、借りた金額では会社の建て直しが不可能と悟ったジル=レイジャーは、他の使い方を選びました」
え? もしかして、豪遊とかしちゃった? いや、そんな人には見えなかったけど……有り得るか。
「従業員達への賃金支払いに使われています」
「……そのお金を持って逃げちゃおうとか思わなかったのかな?」
「ジル=レイジャーの評判から判断すると、それは有り得ないでしょう。彼の知人で、ジル=レイジャーを悪く言う人間はいませんでした」
善人。多分その言葉がばっちり似合ってしまう人物なのだろう。そして、そんな善人こそが幸せを掴みそこなう。
嫌な世の中だね、全く。
と言うかアーリス、どこでそれ程の情報を?
……もしかして。
「アーリス、『ユグドラシル』に不正アク」
「していません。それよりも私の調べた情報を大人しく聞いていて下さい」
「……はい」
食い気味に否定された。
自分に仕えるヒュアミスに勝てないとか、世界中で僕位なんじゃなかろうか──なんか凹む。
「ジル=レイジャーはレリックから借りた金を賃金として使用。その後会社は倒産しています」
「レリック以外からの借入は?」
「ありません。沈み掛けの泥舟に金を出す馬鹿はいなかったわけです」
言い方がなぁ。
「会社が倒産した後、ジル=レイジャーはレリックから借りた金を返済する為に身を粉にして働きます」
「けど返せなかった?」
「返せる金額ではなくなっていたのですよ」
高利貸し……か。
「日に日に強くなる圧力にジル=レイジャーは命の危険を感じ、妻であるキャシー=レイジャーと共に逃げる選択をします」
「けど、それは無駄だった」
「はい。レリック『
山城組。随分と和を感じさせる名前だな。まぁ、ここは第三地区日本なのだから、それも納得か。
「そして山城組は逃げるという考えを持たせなくする為に行動にでました」
「それが」
「キャシー=レイジャーの監禁」
「陳腐だなー」
とてつもなく陳腐。だが、最も簡単な悪の示し方。
「金が払えないなら、身体で払えってやつ?」
「そんなところでしょう。幸いな事に、キャシー=レイジャーは山城組の屋敷の何処かにいるのは確かです」
「生きてる?」
「はい」
最も大切な情報である。生きてさえいれば、助ける事が出来る。
キャシーさんも、ジルさんも。
「山城組の構成メンバーは?」
「外見だけが三十名、本物が一名。典型的な田舎レリックといった所ですね」
「本物が一名か……」
まぁ、本物が一人もいないレリックなんてそうそう無いし、一人位はいると思ってはいた。
「裏では名も知られていない様な本物です」
「じゃあ、特に問題ないかな?」
「はい。要が下手を打たなければ」
「……じゃあ、いつも通りにやるとしましょう」
そこまで話して、僕達は足を止めた。
十メートル程先に大きな門。The日本建築な門の左右には、三メートル程の高さがある真っ白な塀が伸びている。
「あそこ?」
「はい。間違いありません」
「大きいね」
「見栄というやつでしょう」
五メートル程の高さの門。その後ろにそびえ立つ屋敷。二階建ての城の様なその建物は、あまりにもあから様だった。
「悪者住んでそー」
正直な感想である。
「さて要、あの屋敷のセキュリティ関係を掌握出来る時間なのですが、一時間といった所かと思われます」
「一時間あれば、なんとかなると思う」
屈伸しながら、アーリスと目を合わせて頷く。
うん、大丈夫。一時間あればなんとかなる。
ワイシャツの上に羽織ったグレーのパーカーのポケットからイヤホンを取り出し右耳へ。黒のチノパンのポケットから、黒のオープンフィンガーグローブを取り出し装着。最後にワイシャツの胸ポケットから、黒縁メガネを取り出し装着。
準備完了。
「セキュリティ掌握後、五分以内に屋敷内の見取り図を送ります」
「了解」
「侵入経路はどうします?」
「アーリスがセキュリティ掌握したら一旦塀の上に上がって、あとは状況を見て判断」
「そうですか。では、お気をつけて」
「うん。また」
目的はキャシー=レイジャーの奪還。タイムリミットは一時間。
何でも屋『風見鶏』。
お仕事開始します。
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