第25話 受験と結果、それとアメリカ

 ついに天童高校てんどうこうこうの受験の日になり、ゆいは試験会場に行く準備をしていた。

 

「問題文をよく読んで、落ち着いて試験を受けるんだぞ」

 

 こうは心配し過ぎて心肺停止になりかける。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。それじゃ行ってきます」

 

 唯は、玄関を出て試験会場に向かった。

 玄関にしばらく静寂せいじゃくな空気が流れ出した途端、けたたましい恍の声が響き渡る。


「ちょっと! うるさい、静かにしなさい」


 びっくりした母親が、リビングかのドアを勢いよく開けて恍に叱りつけた。

 だが、恍は心配でジッとしていることが出来なく、リビングに入りグルグル歩き回る。

 

「家の中で、ぐるぐる回るんだったら、外に行って散歩でもして来なさい!」

 

 母親から家を追い出された俺は、散歩に出かけた。



 近所をとぼとぼ歩き、腕時計を見ると午前九時になっていた。

 

(試験開始したな。唯の奴、ちゃんと問題文を読んで解いてるかな?)

 

「恍。なに不審者みたいに歩いてるの?」

 

 上を眺めると、二階の窓から、まき絵が顔を出していた。

 

「今日、唯の入学試験の日なんだ。それで居ても立ってもいられなくて……」

 

恍は挙動不審きょどうふしんになっていると、

「わたしの部屋に来なさいよ」

 

 恍は、お言葉に甘えて、まき絵の自宅にお邪魔して部屋に入る。

幸い小寿恵姐さんは仕事でいなく、すんなりまき絵の部屋に入ることができた。

 

 まき絵はお菓子と飲み物を持ってきて、

「そんなに慌てなくても、唯ちゃんなら大丈夫よ」

「俺もそう思いたいけど、もし試験会場で何か問題が起きたらどうしようと考えると

俺は……」

頭を押さえて俺は考え込むと、まき絵は俺の背後からギュッと抱きよせた。

 

「大丈夫って言っているでしょ。あんたが落ち着かなくてどうするの」

 

 恍を抱いたまき絵は、俺の頭を優しくで、落ち着かせる。

 恍は、じっと、まき絵の体に抱きついていると、

「まき絵。近所のケーキ屋でシュークリーム買ってきたから――っと、失礼しました」

 

 勘違いをした、まき絵の母親はドビラを閉めると、まき絵は恍を突き飛ばして、誤解を解きに部屋から出て行った。

 

「何も突き飛ばさなくてもいいだろ。あの怪力女め!」

 

 しばらく部屋で待っていると、まき絵は顔を青白くさせて、部屋に入って来た。

 

「あんたのせいで変な誤解をされたじゃない……」

「おまえが勝手に、俺の体を引っ張って、抱きついて来たんだろ! 俺だって、おまえみたいな、UMAに抱きつかれて変な誤解されるのもいい迷惑だ!」

「それが、あんたを落ち着かせようと体を張ってあげた行為に対する、わたしへの発言なのかな?」


 まき絵は、鬼のような顔つきになり、ジワジワと近寄って来る。

 

「あの、まき絵さん……。さっ、さっきは言い過ぎました。お願いだから、気をしずめて!!」

 

 記憶を消し飛ぶような蹴りで、恍の頭に直撃した。

 頭をフラフラさせながら、自宅に帰り玄関の扉を開けると、勢いよく親父が飛び出して来て、ついでに母親も血相かいて来た。

 

「どうしたんだよ親父、母さん! 急に飛び出してきて」

「まき絵ちゃんのお母さんから電話で聞いたぞ。おまえさっきまで、まき絵ちゃんの部屋で、まき絵ちゃんと、いやらし行為していたんだろ、唯が一生懸命試験を受けているの

に、不謹慎ふきんしんすぎるぞ!!」

 

 いきなり親父に、胸ぐらを掴まれて恍に激怒げきどしてきた。

 

「ちょっとまて親父、誤解だ! 俺が慌てふためいてた時に、まき絵が落ち着かせようと俺を抱いてだな――」

「言い訳なんて見苦しいぞ恍!!」

俺の顔面に固い岩のような拳で殴ってきた。

 

「なにも殴ることはないだろう。母さんも見てないで何か言ってくれ!」

「朝から唯の心配で、リビングを歩き回っていたんじゃなくて、自分の性欲を抑(おさ)えきれなくて歩き回って、――最期は我慢できずに、まき絵ちゃんを襲うなんて――母さんは、そんな風に育てた覚えはありません!!」

 

 母さんは口に手を当て泣き叫び始めた。

 俺は今日一日、トイレ以外部屋から出ることを禁止させられた。



 まき絵家の騒動で精神的に疲れた恍は、部屋で、のんびりパソコン使ってネットの動画(Hな動画ではありません)を見ていると、いつの間にか、夕方になっていた。

 

「そろそろ唯が自宅に帰って来てもいい頃だな」

 

 すると、2階に上がる階段の音が聞こえた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 部屋のドアが外れそうなほどの力で開けて、唯が息を切らして入って来た。

 

「唯。手ごたえの方はどうだった!?」

 

 段々唯の瞳から溢れんばかりの滴が流れてくる。


「麻衣に邪魔された」


「なに!! 嘘だろ……。まさか入試で、邪魔してくるなんて信じられねえ!」

 俺の額(ひたい)から汗が止まらず出てくる。

 

「最初は筆箱ふでばこの中に入っている筆記用具が全て壊されていて、それから――」

 唯は俺に腕を見せてきた。

 肘から手首まで、ものすごいれてあざができている。

 

「うわっ!! どうしたんだ、その腕!!」

「休憩時間、トイレに行こうと階段近くを歩いた瞬間、麻衣に押されて階段から落ちちゃって……」

「じゃあ……。試験は」

 

 俺は絶望的になり、肩をがっくり落とす。

 

「運良く隣の席の子がシャープペンと消しゴムを貸してくれて、何とかテストを受けることができたのだけど、腕が痛くて思うように書けなかった。だけど面接はちゃんと答えることができた」

 

 鳳城麻衣に憤怒の怒りを覚える拓人は自宅に殴り込みしようと行動する。

 

「用事を思い出したから少しの間、出掛けてくる」

「ちょっと待って!」

「なんだ?」

「今から麻衣の所に行くつもりでしょ?」

「どうして分かった!?」

「いつもの、いやらしい目つきじゃないから」


 まさか実の妹にそんな台詞を吐かれるなんて、内面少し拓人は傷ついた。

 

「だけど妹が怪我されて黙っている兄がいるか!」

「大丈夫お兄ちゃん。このお返しは、きっちりテストで返したつもりだから」

 

唯の強い眼差しを見て、恍は仕返しに行くことを諦めた。

 

「分かった、俺は手出しはしない。そしたら、一緒に天童高校に合格してるように祈ろう」

「祈らなくても合格間違いなしだから!」

 

 こうして何とか唯の受験は終わった。



 

 合格発表の日、ほんとは唯と一緒に結果を見たかったけど、飛行機の時間がある為、合格発表にはいけなかった。その代わりに、まき絵、小寿恵こずえ姉さん、母さんの3人は、唯の付き添いに行くことになったのだ。

 

「唯の奴大丈夫かな?」

「心配するな。きっと合格している」

 

 恍の付き添いに来た、親父が言う。

 最後の旅立ちの時、というのに見送りに来たのは父親ただ一人。

 恍は空港の改札口を入ると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「恍! 途中で日本に逃げ帰ってきたら、ぶち殺すから!」


 まさか、唯の受験発表について行ったはずのまき絵が額に汗を流しながら大声で叫ぶ。

 

 恍は、まき絵に手を振り、

「誰が逃げるか! じゃーな、まき絵。あまり筋肉付けるなよ。ほんとに可愛いゴリラになっちまうから!」

「うるさいバカ!!」と泣きながら、まき絵は手を振り返した。

 

飛行機の入り口手前で、俺のスマホからメールの着信がきた。

 唯からのメールだ。

 メールを開くと「お兄ちゃんが、アメリカに行って頑張れるように、わたしからのプレゼント動画を送るね」と書いてあり、付属していた動画を見ると、麻衣が全裸になって中学校の周りを一周している動画だった。

 

唯の奴、合格したんだな。さすが俺のだ。

俺は唯にメールで「合格おめでとう」と送り返し、アメリカに出発した。


 それから月日が過ぎて恍は有名な学者になり、まき絵もそれに続いて物理学の教授には慣れはしなかったが副教授へとなった。

 そして唯も恍が通っていた大学に入学するのだった。

                おわり 

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宇宙1可愛くてバカな妹の為に、シスコンのお兄ちゃんが家庭教師をしてやるぜっ! 関口 ジュリエッタ @sekiguchi

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