第24話 報告と決意

 午前四時、年が明けてこうはコタツに入って熟睡じゅくすいしているゆいの肩を揺らす。

 

「おい! 唯起きろ。初日の出一緒に見に行くんだろ」

「ぐぅぅぅぅぅ、ぐぅぅぅぅぅぅ…………」

(昨日は、夜遅くまで起きていたからな、起きられないのも無理はないか……)

 

 いくら起こしても、一向に起きない唯にあることを思いついた。

 

(こんなに起こしても起きないなら、キスしても大丈夫だよな)

 

 恍は、寝てる唯の顔に近づけると、狸寝入たぬきねいりしているかのように急に目を開けこちらを睨め付ける。

 

「ねえ、顔近いんだけど何かしようとした?」

「あまりにも可愛い寝顔だったから、ついキスをしたくなって」

 

 妹は、恍の鼻におもいっきり頭突きをした。

 

「お兄ちゃんの変態! 妹の睡眠中、キスしようとするなんて最低!」

「起きない唯が悪いんだ。――ていうか、言い争っている前に、初日の出を早く見に行かないと太陽が昇ってしまうぞ」

「もう、初日の出見れなかったら、お兄ちゃんのせいだからね!」

 

 恍達は、初日の出を見に急いで自宅を出た。

 

「なあ唯、どこで初日の出を見るんだ?」

「ここら辺で、初日の出が見えるポイントって言ったら、丘の上にある大郷公園だよ」

「なるほど。確かにあそこなら日の出が見える最高のスポットだな」

 

 日が昇るまでに俺と唯は、走って大郷おおさと公園に向い、なんとか二十分も掛ってようやく目的地に着いた。

 

「ハァハァ、なんと間に会ったな……」

 

 息を切らした俺と唯の先には、都心の展望台より高さは劣るが、見晴らしがいい景色が広がっている。

 

「唯、見てみろ!」

 

 膝に手をついて、息を切らしていた唯は、恍の指差す方向に目をやると今までの疲れてた表情が嘘のように回復し笑顔になった。

 

「お兄ちゃん。太陽が出て来たよ!」

 

俺や唯の見た光景は、遥か先の海面から徐々に太陽が現れ、やがて空をおおう暗闇が、太陽の光の力で晴れていった。

 

「お兄ちゃん。すごく綺麗だね」

「何を言っているんだ。唯の方が太陽の千五百万倍、綺麗だよ」

 

 恋愛ドラマみたいなセリフを言える日が、くるなんて感激だ、と恍は心から思った。

 

「実際言われると、気持ち悪いセリフだね。しかも千五百万って、太陽の中心部分の熱さだよね? それをかけて言われると、気持ち悪さが倍増して嘔吐しそう」

「もうやめて! お兄ちゃんが悪かった」

 

 俺は、顔を手で隠すほどの、恥ずかしい気持ちになった。


「初日の出も見たことだし、今から初詣に行こうよ」

「……そうだな。行くとするか」

 

 確か、ここら辺の近くに神社があるな。

 こうして俺と唯は近くの神社に向かい始めた。


 

 神社に向かっている途中、唯は誰かとスマホを操作してメールを打っている。

 

「唯。歩きスマホは危ないぞ」

「ゴメン。今、まき絵お姉ちゃんに初詣に誘いのメールを送ったの」

「まき絵にメール!! (でも、この前の件もあるから行かないだろ)

 

 送って一分もしないうちに、唯のスマホに着信音が鳴り始めた。

 

「まき絵お姉ちゃん後から来るって、小寿恵こずえお姉ちゃんも。だから先に神社に行って待ってよ」

「マジかよ!」

「どうしたの顔色悪いよ」


 この前の件でまき絵とは気まずく連絡は取ってない。

 スマホでも会話ができないのに本人に直接会う事なんて精神的に無理だ。

 

 「ゴメン唯。今日、大学の先生に連絡しないといけないから、このまま帰るわ」

「ちょっと、お兄ちゃん!」

 

唯を置いて恍は一目散にその場からダッシュで自宅に帰路した。



 血相をかいて恍は自宅に着くとそのまま自分の部屋のベッドに寝転んだ。

 唯との初詣はつもうでを一緒に行けなかったことは正直残念な気持ちではいたが、まき絵とは会いたくない為、仕方がない。

 そのまま眠気がくるまで、静かに横になっていると――突然ドアを激しくノックする音が聞こえた。

 唯の奴が帰ってきたのだと思った恍だったが、それにしても初詣から帰ってくるのは早すぎると疑問に思う。

 仕方なくベッドから起き上がりのそのそ歩き部屋のドアを開けると、そこに居たのは唯ではなくて、なんと一番会いたくないまき絵だった。

 とっさにドアを閉めようとした瞬間、まき絵は無理矢理ドアを開け、そのまま恍の首に腕を巻きチョークスリーパーを仕掛けてきた。

 

「なっ、何するんだ! まき絵……苦しいぞ……」

「なんで、わたしを見た途端、閉めるのよ!」

「とっさのあまり、つい……」

 

 一瞬、走馬灯が見えようとした瞬間、まき絵は首を絞めてる腕を離し、間一髪で恍は、命を取り留めた。

 

「おっ、俺を殺す気か!」

「あんたみたいな工業廃棄物を殺したところで、なんもメリットないでしょ!」

 

まき絵の頭の中では、どうやら恍はゴミの分類に属しているらしい。

 

「……ハアァ死ぬかと思った。でも、いつも通りのまき絵でホッとしたよ」

 

 恍は、まき絵に笑みを浮かべてたら、照れてそっぽを向いた。


「……私、目標決まったんだ」

「何だよ突然?」


 急に指をモジモジさせているまき絵を見て、恍は眉毛にしわを寄せ得る。

 今まで見せたことのない照れた表情だったので何かを告げたそうな感じだと恍は悟った。

 

「わたし今の大学で、教授を目指すことに決めたから」

「ふーん。頑張れ」

 

 軽い口調で返したら、まき絵はブチ切れて恍の頭に目掛けて、かかと落としを直撃させる。

 

「おっ、おまえ。かかと落としはないだろ、一歩間違えれば死ぬぞ!」

 

 俺は頭を押さえ悶絶する。

 

「もうちょっと、いい言葉があるでしょ!? そんな軽く応援されても嬉しくないわよ!」

「おまえは、いつも大きく目標を持つけど、最後には飽きてやめるだろ。だから今回もそうなのかなと思って……」


 すると、まき絵は眉毛をキリリと釣り上げ、恍は背筋をゾクッとさせた。

 

「今回は、本気よ。 わたしは豊坂大学、物理学の教授になって、あんたより先に、すごい博士になって見返してやるんだから!!」


 まき絵の目はいつもと違う強い意志が感じられた為、本気で目指していると恍にも伝わってくる。


「その意思さえあれば、きっと教授になれるんじゃないか。まあ、厳しい道だけど頑張れ」

「その上から目線、マジでむかつく。それと、私が教授になったら……その……」


 急にまた、俯きだしたまき絵に何か言いたいことがあるのだと感じ取れる。それも恍に言うのは恥ずかしいことだと。


「もったいぶらないで早く言えよ!」

「うるさいわね! 私が教授になった私の言う事一つだけ聞いてもらう。勿論、拒否権は無いわよ」

 

 顔を真っ赤にさせてブルブル震わせながら恍に指を差す。

 恍はふっと苦笑いで答えを返す。

 

「分かった。約束する」

「覚悟してなさい。早く教授になってぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 

 頭に血を上らせながら、まき絵は恍の部屋から勢いよく飛び出していった。

 

(なんか、最期の捨て台詞を吐いて、悪役が出て行く感じに見えたけど……まあ、なにしろ。まき絵が落ち込んでなくて、よかった)


 心の隅に潜んでいたまき絵に対するモヤモヤが晴れて気持ちよくベッドに潜り込んで一休みをする恍であった。



 しばらくしてベッドから目覚めて起き上がり、リビングに戻るとそこには唯がテレビを見ていた。


 両親には海外留学の事を伝えていたがまだ唯には伝えていなかった。

 意を決して恍はソファでくつろいでいる唯のところに行き話す。


「なあ唯、おまえに伝えないといけないんだ」


 怪訝けげんそうに唯はこちらを見る。


「なに? 嫌らしいことでも私に言うわけ」

「いや、これは真面目な話だ俺な海外留学しようと思うんだ」


 どんな反応をするのかと唯の表情を伺うと涙を見せずしました顔でこちらを見る。


「勉強はどうなるの?」

「心配しなくても受験までいるから安心していいぞ」

「そう。なら良かった。留学したら勉強頑張ってねお兄ちゃん」

「えっ! それだけ!? ワンワン泣いたりしないの?」

「泣くわけないでしょ」


 めんどくさそうに唯はテレビの電源落としてリビングから出て行った。


 悲しみに包まれながら拓人は部屋から出る時、二人の会話を聞いていた母親が恍を手招きしている。


「どうしたんだ、母さん?」


 恍はキッチンにいる母親の元に行く。

 母親は恍の耳元で細い声でささやいた。


「さっきは、ああやって悲しくない表情を出しているけど、実は昨日あなたが留学する事を伝えると大声を上げて泣いていたのよ。」


「唯が泣いていたのか!?」


 てっきり鬱陶うっとうしい兄がいなくなって安心したのかと思った。


「もし泣いたら恍がアメリカに行かなくなるんじゃないか、といつもあなたといる時は、平常心でいるのよ」

「そうだったのか。唯の為にも頑張らないとな」


 海外で名をあげれるような立派な学者になっれるよう恍は決意したのだった。

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