第20話 決断

 ゆいが学校から帰宅し、実力テストの答案用紙をこうに見せた。

「やっぱり、点数が落ちている」


 そこまで低くはないが、前より十点は低くなっている。


「今日、友達と勉強会して何とか巻き返してみる!」


 強い意気込みをぶつけて恍の部屋から出て行った。

 ほんとはもっといい点を取って欲しかったが、しょうがない。



 しばらくして父親と母親が帰宅したとき、まだ唯は帰ってこなかった。

 内心、唯が帰宅しなかったことにホッとした。なぜなら、今から両親に進学のことについて話さないと決断したからだ。

俺は、レポートを書くのを辞めて、リビングに向かった。

 意を決してリビングに入ると、両親は椅子に座ってくつろいでいた。

 なんて言おうか迷って入り口前で立ち尽くしていると、母親が怪訝けげんしてこちらに言葉を発する。

 

「どうしたの、難しそうな顔をして?」

「大事な話があるんだ」

 

 父親は、話を聞くために、渋々テレビに写る野球中継を消してテーブルの椅子に腰を下ろした。

 恍は、勇気を振り絞って唯の事を告げた。


「唯を、天童てんどう高校に、受験させたいんだ」

「ダメ」

 

 母親は速攻で反対した。

 

(やっぱりそうだよね。でも反対されようとも諦めないぞ!)

「反対する理由は分かる。でも、唯みずから天童高校に受験したいと言ってきたんだ。」

北原きたはら高校に唯を受験させようとしていた、あんたが、どうしてそんな天童高校という危ない橋を渡らせようとさせるの? 兄だったら、普通は反対するべきでしょ。」


 天童高校に受験するきっかけが唯のイジメがイジメを受けている原因だなんて口が滑っても言えない。

 だから兄である恍は決心して、唯の為にも両親に承諾を受けるよう説得をしに来たのだ。

 

「唯は天童高校に合格出来ると思っているからだ。確かに天童高校は天才達しか入れない所だと分かっている。だけど俺は唯を信じたいんだ。だから頼む、唯のわがままを聞いてやってくれ」

 恍は両親達に頭を下げて懇願する。

 

「もし、唯がそこの高校に落ちたらどうするんだ。おまえは責任とれるのか?」


 さすがの父親も娘の将来が大事なため、恍の意見には猛反対。

 呼吸を整え、声を張って主張した。

 

「勿論。責任は俺が取る」

 

 反発するように母親はテーブルが粉々になるかのように両手でテーブルを叩き、恍に向かって激しい形相をする。

 

〈いい加減にしなさい!! あなたが責任を取るとかの問題じゃないでしょ!! 妹の将来をダメにするき!! 第一、その高校は頭のいいあんたでさえ、落ちた高校なのよ!〉


 母親の怒声どせいにひるみ反論することが出来ない。

 そんな二人のやり取りを見た父親は思いがけない一言を告げる。

 

「唯の行きたい高校に行かせてやれ」

〈お父さん!!〉

 

 父親の一言でさらに母親の怒りのボルテージが上昇しだす。


「ありがとう。父さん!」

「ただし条件がある」

「条件?」


 父親が一呼吸置いて口を開いた。


「もし唯が受験に落ちたとき北原高校を受けさせることともう一つ、恍、おまえが唯の入学金は勿論、学費や生活費を全て工面する事を約束できるか?」

「わかった。その時は、大学をやめて働いて唯の面倒を見る」


 可愛い妹の為だったら、どんなことをしてもいい、と拳を力強く握りしめた。


「母さん。そういうことだから。この二人に任せなさい」


 父親は優しく母親に言葉を掛けるが、母親は予想にもしない反撃を始めた。


「わかりました。その件についてはもういいです。――けれど!」

「俺は関係ないだろう!」

「いいえ! そもそも、あなたが唯に教育しなかったのもいけないんです」


 母親の言うとおり、父親は小さい頃から唯を甘やかしてばかりいたせいで、ろくに勉強をしてこなかったのだ。

 さすがの父親もこれにはぐうの音も出ないでいた。

 

「まあ、母さんの言うことに一理あるな」

「おまえまでそんな事を言うのか!?」


 急に矛先が恍から父親にへと変わる。


「とにかく、唯が勉強をろくにしないで遊ぶようになったのは、父親であるあなたも責任があるのですから、唯が高校に入学するまでの期間、お小遣い禁止ですからね!」

「そんな~」

「当たり前です! キャバクラに行って若い子にお金を貢がせるなら、生活費に回した方がいいに決まっています!」


 まさか父親がキャバ嬢に貢いでいたなんて信じられない。

 

「父さん最低だな」

「何を言っているんだ! 俺はそんな卑猥ひわいなところに、行くわけないだろう!」

「言い訳が聞きたくありません! あなたがに入った所を近所の人が目撃しているのよ!」

(母さん。それキャバクラじゃなくて風○だよ……)


 喉まで出かかっている言葉を何とか押し戻して恍は耐えた。


「デタラメだ! 俺は無実だ!」


 両親達の許しも得た恍は、往生際おうじょうぎわの悪い父親を、これ以上見てもむなしくなるだけだと思い、明日提出するレポートを書きに部屋に戻ることにした。

 

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