第19話 兄の暴走!!

 実力テスト前日。ゆいの部屋で恍は勉強を教えるため、唯にテストの最後の追い込みをかけた。

「お兄ちゃん今夜は何の勉強をするの?」

「保健の実技を勉強しようかな。今夜はノートを使わないで、ベッドを使う」

 

 そう言った途端とたん、部屋から追い出され、いきなり扉を閉められた。

 

「いいのか唯。俺を部屋に入れないと、テスト勉強を教えてやらないぞ」

「いいよ。まき絵お姉ちゃんに今無理やりお兄ちゃんに犯されそうって、メールで送るから」

「さっきは、卑猥ひわいな言動をいたしまして、本当に申し訳ありません」

 

 日本にまつわる最終奥義、土下座をして謝罪する。

 部屋のドアの隙間から覗いていた唯が、ドアを開けて深いため息をした。

 

「中に入って来ていいよ」

 

 まき絵が関わると唯に手が出せない恍はしぶしぶ真面目に勉強を教えることにした。

 

「それで今夜は何の勉強をするの? もしまた変なこと言ったら、今度は小寿恵こずえお姐ちゃんに電話するから」

「小寿恵姐さんの、連絡先を何で唯が知っているんだ!?」

「この前、まき絵お姉ちゃんに『わたしと小寿恵お姉ちゃんの連絡先教えるから、もしバカアニキにいやらしいことをされそうになったら、いつでも連絡してきてね』と言われて渡された」

 

(まき絵のブタ野郎! 余計なことしやがって、よりにもよって、小寿恵姐さんの連絡先まで教えることないだろ!)


 だが、今はまき絵のことで腹を立ててる場合じゃない。

 気を取り直して恍は勉強を唯に教えることにした。

 

「昨日俺が作った、実力テストの対策問題をやってもらうからな。テストだと思って真剣に受けるんだ。制限時間は五十分で七割近く問題が当っていたら合格だ」

「いいよ。こんな問題楽勝だよ。お兄ちゃん」

唯は自信に漲っていた。


「よし始めろ」


この問題を解けなかったら、明日のテストは絶望的だ。



問題を解き始めてもうすぐ五十分になる。

 

「三、二、一、そこまで。今夜、答え合わせして結果を教えるから」

「まっ、結果は聞かなくても分かるけどね」

 

その自信に満ちている、唯の表情を見ていると、キスしたくなってくる。

 唯から、対策問題の解答用紙を回収して、恍は自分の部屋に戻った。

 

(さてと、答え合わせでもするかな)

恍も問題を間違わないよう、慎重に答え合わせをし、一五分程度で採点が終わった。

(やっぱりな、俺の思っていた通りだ。唯に採点結果を教えた方が良いかな?)

 

 しばらくの間ベッドの上で考えていると時計の針はもう七時になっていた。夕食の時間なので恍はリビングに戻っていく。

 

 リビングで夕食を食べ始めると唯が、

「さっきの問題全部解けてたでしょう」

「残念ながら全部は解けていなかった、でも少し難しくしたからしょうがないな」

「食事が終わったら、さっきの解答用紙見せて」

「見せるのは、実力テストが終わってからにしないか?」

 

 やっぱり唯には見せられない、明日の試験に、支障が出るかもしれないから。

 

「どうしてよ。今日見せるって約束したでしょ。お願いお兄ちゃん」

 

 唯の輝く瞳に、心を奪われしょうがなくテストの解答用紙を見せることに決めた恍は、食事を終え、自分の部屋から採点した解答用紙を持って唯の部屋に向かった。

 

「唯これが、おまえの解いたした解答用紙だ」

恍は、解答用紙を差し出すと、唯の血色のある顔から、まるで病人見たいな青白い顔つきにへと変貌した。

 

「嘘でしょ、お兄ちゃん……」

「ほんとだ。なんども繰り返し確認しても、同じ点数になった」

「今まで、あんなに出来たのに五十四点って、どういうことよ」

 

 涙を堪えている唯に頭を抱える恍だった。

 

「唯。お兄ちゃんは、復習もちゃんとやろうって、あれ程言っていたのにその忠告を無視するからこういう結果になったんだよ」

 

 唯を叱るのは嫌だが、これも高校を合格させる為だから仕方ない。

 

「ごめんなさい。お兄ちゃん」

 

唯は泣きだして恍に謝罪した。

 

「なっ、泣くな唯。ごめん、お兄ちゃん言いすぎたよ。唯は頑張った、偉いぞ!」


 慌てふためき恍はどうしていいか、わからなくなる

 まさか泣くとは思わなかった。でも泣いている唯も可愛いな、とシスコン変態兄貴は自分の欲情が、まさにダムが決壊しそうになるくらい欲望が強くなる。

 俺は唯を力いっぱい抱きしめて慰めた。

 

「次から、お兄ちゃんの言うこと聞いて、復習もちゃんとするんだぞ」

「分かったよ。お兄ちゃん」

 

 恍の胸元で「クスンクスン」とすすり泣く唯にとうとう欲望の強い感情が強く臨界点を突破し暗黒面に落ちていった。

 

「分かったら、お兄ちゃんに言う通りに任せればいいんだ」

「うん。頼りにしているよ。お兄ちゃん」

「兄ちゃんに任せろ」

「ねぇ。お兄ちゃん慰めてくれるのは嬉しいけど、いつまで抱きついているの?」

 

 俺はいやらしい顔つきで笑みを浮かべる。

 

「対策問題で七割いかなかった為、これよりバツを与える」

「何言っているの、お兄ちゃん……」

「問題を解けなかった唯が悪いんだぞ!」

「ちょっと! 抱きつきながら変に腰を振らないで! ねぇ、聞いてるの! お兄ちゃん……」

 

 唯は嬉しそうな表情から一変、恐怖の表情に変わった。

 恐怖のあまり唯は、急いでポケットからスマホを取り出し、まき絵に電話した。

 

〈まき絵お姉ちゃん。お願い助けて! お兄ちゃんに犯されそうになっているの!!〉

 

「おまえ何、まき絵に電話しているんだよ! こうなったら、まき絵が来るまでに好き放題させてもらうぞ覚悟しろ!」

 持っているスマホを、あさっての方向に投げ飛ばし、無理やり唯を床に倒しす。

「まずは、熱いキスからしてやるぞ!」

 

 馬乗りになり、両手で唯の両腕を掴み、身動きを取れないよう、唇を目掛けて俺の唇を近付けていく。

 

「おっ、お兄ちゃん手をどけて! 離れて! 顔近いよ! 息が泥臭い!」

 

 最後の酷い言葉を無視して、嫌がる唯の唇がを奪おうとしたとき、悲劇が起きた。

 あと数センチという所で、恍の視界が歪み、いつの間にか、バトルアニメ並みの物凄い速さで本棚に吹っ飛んでいた。

 苦痛に耐えて尻餅をつきながら、上を見上げると、そこには鬼の形相をしたまき絵が仁王立ちをしている事に気付く。

 

「まっ、まき絵。どっ、どうしたんだ、怖い顔して……」

 

 恍はは恐怖心で声を震えながら喋ると、

「唯ちゃんに、いやらしいことしたら承知しないわよって、わたし言ったはずよね。覚悟はできてる?」

「ほんの出来心だったんです。許して下さい、お願いします」

土下座して懇願すると、まき絵は恍の前髪をわし掴みして、

「まずは、歯を食いしばろうか」

 まき絵は怒りの混ざった笑顔で話すと、家全体に響き渡るほどの、パンチを恍の顔面に二発お見舞いした。

 

両親が何事だと思い、唯の部屋に慌ただしく入ると、そこには顔面腫れあがった状態で正座させられている恍の哀れな姿があった。

 

「金輪際、唯ちゃんに手を出さないと誓える?」

「はひ、ちはひます」

「また唯ちゃんに、いやらしいことしたら、次は小寿恵お姉ちゃんも、連れて来るから」

 そう言ってまき絵は自分の自宅へと帰って行った。

 

「恍の妹暴走を止められるのはまき絵ちゃんだけね」

 

 母さんは額に手を当てながら、ぐったり肩を落とす。

「もう思い切って、まき絵ちゃんと結婚しろ」と親父は腕を組んで言った。


 両親に唯の部屋を追い出された恍は、自分の部屋にしぶしぶ戻る。


 じんじん顔が蜂に刺されたような痛みを耐えながら、早めに寝ることにした。

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