第14話 大好きな妹とお買い物 

 小寿恵こずえの乱入からまき絵とは複雑な気持ちで三日間を過ごし、唯の条件が達成できなかったため白紙になり、数日間こうは俯いた気持ちになっていた。

 それから一週間後、街ではクリスマスに向けて色とりどりのネオンを装飾し、準備に向けている。

 そんな中、恍はベットの上で楽しい夢を見ているかのような気持ちのいい寝息についていると、突如悪夢が訪れた。

 

「ゆ……い……大人しく……」

「夢の中で何しとんじゃっ!」

 

 恍の顔面目掛けて強烈なかかと落としが突き落とされた。顔面がモロにめり込み、あまりの苦痛で目を覚ましてしまう。


「何すんだよ凶暴ゴリラ、せっかく夢で唯を犯していたのに」


 あまりの史上最悪な発言に、まき絵は肩をふるわせながら茹でタコのような表情になりだす。

 

「犯すってぇぇぇ、あんたバカじゃないの! なに夢で唯ちゃんを襲っているのよ! この性犯罪者!」

「夢の世界じゃ犯罪者になったとしても夢は夢。別に逮捕されるわけがない」

「あんたもしかして……毎日そんな夢ばかり見ているの?」

「唯が出てこない夢は見たこともない」


 その一言でまき絵の身体から流れる怒りの暑さが高騰して全身から湯気が沸き起こるように浩太の胸座むなぐらを掴み顔が変形するまで殴り続けた。


 今日はまき絵と唯の三人で近所のある百貨店で買い物をする約束をしていたのだが、肝心の恍がまだ寝ていたため仕方なくまき絵が起こしに来たのだ。


「早くしなさいよ。唯ちゃんが待っているわよ」

「たしかに可愛い妹を待たせるのはよくないな、早くした支度しないと」


 急いで身支度を済ませ朝食を取り、三人は近所のショッピングモールに出かけた。

 歩いて二十分、そこにはあった。大型野球ドームより大きな四階型の建物で休日のこともありかなりの買い物客で賑わっている。


「唯、迷子になるといけないから俺とカップルみたいに腕を組んで歩こう」


 唯に腕を差し出すと勢いよく弾かれた。


「私に触れないでよ変態」


 唯の罵倒に悲しみよりも呆気に取られてしまい、その後ろでまき絵は馬鹿にするようにクスクスと笑い始める。


「な、なんだよ、恥ずかしがることなんかないんだぞ」

「うるさいな! 勉強の時以外、話し掛けないで!」

(前よりも反抗的な態度を取るとは……さては、まき絵の仕業だな)


 いつの間にかまき絵は唯の隣にいて仲良く楽しい会話を広げていた。ふとこっちを見ているのを気付くと、

「妹を取られて残念だったね」

 と馬鹿にしたように鼻で笑われた。


 ご機嫌斜めのまま二人のショッピングに付き合っていると、なぜ恍がお呼ばれしたのかがここで察しが付いた。

 その理由は単純に二人が購入した商品を持つ荷物運びだ。両手にオシャレな模様を模った紙袋や四角い段ボールなどを持たされ、その事に気付いた恍は帰りたい気持ちでいっぱいになる。

 正直可愛い妹の荷物運びは苦にはならない。なぜなら真新しい衣装を身に纏った唯の姿を見れるなんて兄としてすごく幸せなのだから。


「お兄ちゃん早く、迷子になっちゃうよ」

「わかった」

「ほら早くしなさいよ。ほんと愚図ぐずなんだから」

「黙れ! アウストラロピテクス!」

「何ですって!」


 いきなり血相をかいてまき絵がこっちにイノシシのようにツッコんできた。両手に買い物袋を持っている状態なので、かわすことができずモロにまき絵のゲンコツが頭にヒットする。

「殴ることはないだろ! それに俺は疲れた。どこかで休まないか?」

 

 ついて四十分以上荷物持ちをやらされて正直足が悲鳴を上げ始めている、どこかで身体を休ませなければこの場で屍になってしまう。


「しょうが無いわね。あそこにベンチがあるから、少しだけ休憩をすることを認めてあげるわ。感謝しなさい


 まき絵に罵声されても反論する事はせず近くにあるベンチに腰を下ろすことにした。

 二人はまだ買い足りない物があるらしく、恍を置いてそそくさと歩いていった。


 少しの間ベンチで休憩していると、挙動不審のご老人がキョロキョロ辺りを見渡していた。

 

(迷子かな……)

 

 少し心配になったのでその老人に駆け寄り話しかけた。


「どうかしましたか?」

「ああ。可愛い孫とはぐれてね、それで探し回っているのだが一向に見つからなくて困ったよ」


 疲れて休みたい気持ちがいっぱいだが、困っている老人をこのまま放っておくのも出来ないので仕方なく力を貸すことにした。


「一緒に探しましょ」

「いいのかい!」

「ええ、困っている人を見つけたら助けてあげるのが筋ですからね」

「助かるよ。ありがとう」


 恍の手を両手で力一杯握り絞めて感謝してくれた。

 こうして謎の老人の孫を探索することになった。

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