第12話 大っ嫌いな幼馴染みが泊まりにやって来る

 休日両親は旅行で三日間帰ってこないため今日からゆいと二人きりで楽しい暮らしが始まると思ったのだが、が乱入して最悪な一日になった。


 リビングのソファに座っているゲテモノを恨めしい気持ちでこうはぶつける。

 

「……どうして」

「ん、どうしたのお兄ちゃん」

「何でもない」


 仏頂面ぶっちょうづらで暖房が効いた室内でキンキンに冷えたオレンジジュースを喉に通し怒りで沸騰した頭を冷やす。


「いいから、そんな奴ほっといて唯ちゃんの部屋に行こう」

「うん」


 まき絵は踵を返して、

「唯ちゃんの部屋に勝手に入ってきたら殺すから」

 と恍にねめつけおどし、唯とリビングから出て二階に上がっていった。


「くそ、まき絵の奴……あんな奴と三日間共に暮らすなんて地獄にいるのとおんなじだ」

 独り言のようにブツブツ文句を言いながら言いながら気を荒げているが、唯の条件だからしょうがない……。


 

 テストの結果が全て目標の点数より上回り約束の唯に口づけをしようとしたとき、

「お兄ちゃん今ここでキスしてもいいけど、もっと刺激的なことをしない?」

「し……刺激的なことだと!?」


 生唾を飲みながら鼻息を荒々しく吐き服を脱ごうとした時、

「ただし条件があるの。もしその条件を呑んだら一日だけお兄ちゃんと一緒に寝てあげる」

「ふん。騙されないぞ。そうやって俺からキスを逃れたいんだろ! そうはさせない」


 恍はがんとして首を縦に振らない。今まで唯の条件を呑んだ約束はことごとく破られたから、今回はどんな好条件でも決して呑まれない。


「嘘ついたら、

「――その条件呑んだっ!!」


 さっきの言葉は前言撤回ぜんげんてっかい。妹を犯すことなんて恍には願ったり叶ったり。


 甘い誘惑ゆうわくに乗るバカな変態はまんまと唯の戦略にまってしまうのだった。


「それでその条件とは何だ?」

寝てあげる」

 

 まさかの条件に理解が苦しむ。


「どうして、まき絵に告白しなくちゃいけないんだ?」


 唯に疑問を投げつけると頬をふっくらと赤く染め始める。

 

「だって、わたしお姉ちゃんが欲しかったから。もしお兄ちゃんが結婚したら、まき絵お姉ちゃんが私の義理の姉になるでしょ」

「いやいやいや。付き合ってもいないのに、結婚しろってぶっ飛びすぎるだろ」

「もう付き合っているようなもんじゃん」

「……違うのにしろ」

「それじゃ、小寿恵お姐さんに告白して」

「勘弁してくれ。殺される」


 一瞬想像してしまったのか恍はみるみる死人のような青ざめた顔になる。


「それじゃまき絵お姉ちゃんに告白してね」

「やっぱりこの条件はやめる。それでもって今から唯の唇を奪う」

「その条件は、無くなりました。それに男に二言がある奴は嫌いだってお兄ちゃんいつも言っていたよね。あれって嘘?」

「うっ……」


 その言葉を吐く唯に恍は仕方なくその条件を呑んだ。

 まさか妹の唯からこんな条件を出されるなんて思いもしなかった。


「それじゃあ、今週の土曜日まき絵お姉ちゃんがウチに泊まりに来るからその時ちゃんと告白するんだよ」

「はっ! なんであんなバカが来るんだ」

「父さんや母さんが旅行で三日間いなくなるから、まき絵お姉ちゃんに泊まりに来てもらうことにしたの」

「あんなバカがいなくても頼もしい兄がいるだろう」


 胸に手を当てながら必死に話す恍に、軽蔑けいべつな目を唯は向ける。


「たのもしいじゃなくての間違いなんじゃない」

「如何わしい事しないから、とにかく土曜日は唯と二人で暮らしたい」

「ダメ! 私はまき絵お姉ちゃんと一緒に暮らしたい」


 頑として聞く耳を持たない唯をどうにかして三日間二人だけで暮らしたいが、条件のこともあるので、仕方なく受け入れることにする。

 

「……わかった。ただし高校受験も控えているんだし羽目を外すなよ。それとまき絵に告白したら条件のことも忘れるなよ」

 

「わかってるって」

 


 こうして三日間三人で暮らすことになったのだ。


まき絵に告白することなんて絶対しないから兄である恍との条件は白紙になるし、万が一告白して恍に如何わしい事されても大好きなまき絵に助けてもらえばいいという魂胆を唯はもっていた。


 今リビングで恍は、どうまき絵に告白しようか迷っているし、屈辱的くつじょくてきな事でもあるため、重い空気を室内に撒き散らしながら、深いため息をしていた。


 果たしてこの三日間恍はまき絵に告白することが出来るのか。

 

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