第8話 天童高校について
一騒動も終え、
「久しぶりだな
小寿恵はニヤニヤと口元に笑いを浮かべて二人を眺める。
「冗談でもヤメてよっ! なんでこんな変質者とっ!」
「ハアァァァァァッ! 俺だってお前みたいな雌ゴリラなんか抱きたくもないっ!」
「誰がゴリラ女だって!」
鋼のような拳を顔面に直撃を受けて、恍はそのまま床に崩れ落ちる。
「……たく、私の前でイチャイチャしやがって……」
額に手を当てながら小寿恵は嘆息を漏らす。
《だからイチャイチャしてない(わよ)》
二人はハモりながら小寿恵に
「わかった、わかった。ところで恍、私に何か用があるんだろう?」
「そうそう」と頷き、唯の件を語る。
唯が天童高校に受験することや、イジメを受けていたことなどを。
二人は激しい形相で身を震わせるほどの怒りをあらわにするが、やがて冷静さを取り戻す。
「……なるほど天童高校か……今の
男のように
「お姉ちゃんの言うとおり、唯ちゃんには無理だよ。だって勉強する期間もあまりないのよ」
「でも……
俯きながら恍はモゾモゾと貧弱そうに話す。
「そんな事なら、私が唯ちゃんをイジメた奴らを撲殺してもいいんだぞ。心配するな、遺体は警察にバレないように処分するから」
頬を釣りながらニヤニヤする小寿恵をみて恍は悪寒がした。
この人の事だから間違いなく実行するに違いない。
恍も一度、小寿恵の逆鱗に触れてアバラを5本折られ、全治三ヶ月の重体で入院をした経験がある。
理由は恍が反抗期になった時、小寿恵に向かって舌打ちをしたら、左手で首を絞められ、そのまま脇腹目掛けて強烈なフックを何発もくらったのだ。
それから恍の反抗期はものの数秒で幕を閉じた。
「小寿恵姐さんが来たら、ややこしくなるから気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうだね。お姉ちゃんが来たら、学校まで崩壊しかねないし……」
恍とまき絵は顔を引きつらせる。
「とにかく唯を天童高校に入れさせる方法があったら教えて欲しい」
会話の脱線を戻して小寿恵に尋ねる。
「う~ん。唯ちゃんを入学させる方法は確かにあるが……」
「ほんとに! で、その方法はどんな――っ!」
小寿恵に至近距離に近づいた恍は、いきなりヘビー級ボクサー並みのパンチを顔面にクリーンヒットしてしまう。
「顔が近い、離れろっ! ――ていうか抱きつきたいならまき絵にしろっ!」
別に抱きつくために身を乗り出したつもりではないのに、と心に思う恍であった。――しかも、隣にいるまき絵も顔を真っ赤に染めてこちらを睨んでくる。
「それで唯ちゃんを入学させる方法とは?」
顔面があんパンでできた国民的ヒーローと負けないくらいに腫れ上がり、うまく会話がでできない恍に代わって、まき絵が質問する。
「面接だよ」
小寿恵が言うと、まき絵は不思議そうに小首を傾げる。
「筆記の点数が悪くても面接が
「まき絵の言うとおりだよ。普通は筆記がダメなら落とすが、私が在校していたときはその例外があったんだよ」
「え~! そんな事があるんだ!」
魚みたいに目をまん丸くさせてまき絵は驚く。
「ああ。だが、その子は授業に就いていけなくて最終的には退学したがな」
顔面へのダメージを負っていた恍は、なんとか回復して起き上がり小寿恵に尋ねる。
「それじゃ、受験勉強しなくても面接の練習に力を入れば、いいってことなの?」
「そんなわけないだろ。第一、受験したお前達だって身に染みているだろ」
「……まあ、それもそうだな。ちゃんと勉強をしなかったら落ちる可能性は一気に上がるな」
恍やまき絵は一度天童高校に受験をしてが、見事に落ちたのだ。
「そうだ。まあ、お前達みたいに、テストの点数は合格ラインに達していたのに、面接で落とされることも当然あるからな。そうだよな恍。」
急に小寿恵は眉間に
「……どうしたの急に?」
「将来目標としている事は、と面接官に質問された時に『妹と結婚することです』なんて言わなければ落ちることもなかったんだ」
段々小寿恵は頭に血が上り拳を強く握る。
「小寿恵姐さん……顔が怖いよ……」
「なあ、恍?」
「……ん?」
「一発殴らせろ」
さっき殴られて天に召されそうになったばかりなのに、これ以上殴られたら確実に死ぬ。
「ふん。お姉ちゃんにあんなに勉強を教えて貰ったのに、面接でふざけた質問をしたのが悪いのよ」
激し形相をした小寿恵は、今度はまき絵に目を向ける。
「まき絵っ! 貴様は私の数少ない大事な休みを削ってまで、面接練習の特訓に付き合ってやったのに、いざ本番では一言も喋れなかったそうだよな?」
「えっ! ……それは……その……」
スマホのマナーモードみたいにまき絵は、身体がブルブル震え出す。
「ア~、お前らの顔を見ているとイライラしてきた」
「だって、お姉ちゃんの面接と天童高校の面接官の面接は全然違くて……」
「そうそう、小寿恵姐さんの面接はかなり圧迫面接で――」
〈――言い訳は聞きたくないっ!!〉
その夜、二人は小寿恵の逆鱗に触れ5時間にも及ぶ説教を正座して聞く羽目になった。
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