第7話 姐に見られ大ピンチ!?
帰宅後、
「少し休憩してからやろうよ」
先ほどの
「ちゃんと勉強しなさい!」
突然、仁王立ちする母親が目の前に現れた。
いつもはまだ帰宅しない時間帯になのだが、どうやら仕事が早めに片付いたらしい。
「お母さん……いつの間に」
「ちゃんとお兄ちゃんの言うことを聞きなさい!」
「……わかったよ……ったく」
よっこいしょ、とジジくさいかけ声をかけながら唯はソファーから起き上がり、恍に渋々勉強を教えてもらうのであった。
一時間半にも及ぶ勉強をした唯は口から魂が抜けるように机に突っ伏していた。
今回勉強をしたのは数学。中学一年からの範囲の大事な数式だけ解かせたのだが、基礎となる計算式がわからなかった為、小学生で習う算数を急ピッチで教えてから再度同じ計算式を教えた。
「それじゃ、可愛い妹の勉強を見てやったことだし、俺は用事があるからまき絵の自宅に行ってくる」
「えっ! まき絵お姉ちゃんの家に行くの!」
身を乗り出して恍に顔を寄せる。
一瞬唯のもっちりした柔らかそうな唇に恍は自分の唇を押しつけたくなるがグッと堪える。――なぜならキッチンに母親がいるから。
「ああ。唯はお留守番な」
「え~、なんで」
「夜は物騒だから、お兄ちゃん心配だよ」
「それお兄ちゃんが言っちゃいけない
ジト目で恍を見つめる。
唯をまき絵と会わせたくないので、連れて行きたくはない。
「とにかくお留守番だ。じゃあな」
自宅から出て、まき絵の家に向かった。
恍の住んでいる自宅からまき絵の住んでいる自宅までまで三分しか掛からないご近所だ。
まき絵が住む自宅の門の前でインターホンを鳴らし、少し待つとインターホンのマイクから
「どちら様ですか?」
「お客さんが訪ねてきて、その対応はないだろ。もっと明るく対応しろよ」
「変質者に愛想良く対話する健全者がいると思いますか? あまりナメた態度をとると警察に通報しますよ」
まき絵の失礼な態度に恍はムカッと腹が立つ。
この性格の悪いブスに唯がならなくてよかったと心の底から思う。
「唯の事で
「……ちょっと待って」
玄関の扉を開けてくれるまで待つ……が一向に扉が開かない。
あれからもう既に三十分も経過した。
もしかして、わざと待たせているんじゃないかと恍は内心不安がよぎる。
すると玄関の扉が開き、そこには紅葉を感じさせる赤いニットセータに、下は丈下膝までのセミロングで秋にふさわしい彩りをしたチェック柄のスカートを着こなしたまき絵が現れた。
(こいつ……何でおめかしなんてしているんだ?)
普段着とは思えない格好のまき絵に
「なにジッと見ているのよ。気持ち悪いから見ないでよ。殺すよ」
照れているまき絵だったが、恍にはそうは思わなかった。せめて、最後の台詞さえ言わなければ少しは印象が違って見えていたのに。
「出かけるなら別に構わないが俺は勝手に家に上がらせてもらうからな」
「ちょっ、なに勝手に私が出かけると思っているのよ!」
何故ムキになって怒るのか恍は疑問に思う。
「だってオシャレな服装を着てるから、てっきり彼氏とデートに行くのかと思って」
「かっ、彼氏なんかいないし、勘違いしないでよね。ていうか早く中に入りなさいよ、ご近所から通報されたらこっちが迷惑なんだからね!」
(ほんと可愛くない女だな!)
内心ムカムカ気味の恍はこのまま帰りたい気持ちでいっぱいだったが、今回は唯の為に来たので、仕方なくまき絵が住む自宅にお邪魔することにした。
二階に上がると左右の廊下の奥に一つずつ部屋があり、正面には二つの部屋が並んでいる。まき絵の部屋は右奥の部屋だ。
テクテクと床のフローリングを歩いてまき絵は自分の部屋のドアを開けた。
八畳の部屋に、ピンクのカーペット、四角い白のローテーブルに何故か一人部屋なのに謎のダブルベッドがまだ置かれている。
まき絵の部屋に入るのは高校以来だ。
幼少期の頃から、よくまき絵の部屋で遊んでいたときの事が思い浮かぶ。
「そこで待ってなさい特別に飲み物とお菓子を用意してあげるから」
そう言って、部屋から出て行った。
昔と変わらない光景だったので、新鮮さはないが、小学校の時からある謎のダブルベッドが未だに気になる。
前に恍が高校生の頃ダブルベッドについてまき絵に尋ねてみたが『死ねバカ』と理不尽に罵倒されて以来、この件については伏せていた。
そんな事を思い出しながらベッドを見渡していたら、ベッドの上に敷かれた毛布が不自然に盛り上がっていることに気がついた。
気になる恍は毛布をひっぺがえすと様々な衣装が無残に積み重なっている。
まき絵は部屋を片付けられない女性ではないはず。
恍は無造作に積み重ねている服やスカートを手に取りながら眺めていると、
「なに! 私の服を見ているのよ!」
「無造作に置いてあったんだから別にいいだろ」
「よくないわよ! 返しなさいよ!」
ローテーブルにお菓子やジュースの入ったトレイを置き、恍に詰め寄ろうとしたとき、まき絵の足がローテーブルの角にぶつかり、そのまま恍に向かってツッコんだ。
「イテテ……危ないだろ……バカまき絵」
「あんたに言われたくないわよ……」
お互い目をやると顔が至近距離だ。
まき絵は恍に覆い被さったそんな時、悲劇がさらに続けて起きる。
「おい、まき絵。恍が遊びに来てるって母さんが――」
仕事から帰ってきた小寿恵姐さんが目をまん丸と見開いて、恍達の現状を見る。
そのまま部屋のドアを閉め、大声で、
「母さん! 今まき絵と恍がエッチしているから邪魔はするなよ!」
と叫びながら部屋から離れて階段を降りて行く。
「ち、違うのよ! お姉ちゃん誤解だよ!」
まき絵は急いで小寿恵姐さんの後を追って部屋から出て行った。
この現状を、どうしたらいいか悩みながらダブルベッド上で、仰向けにながら思い詰める恍であった。
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