第4話 兄の大暴走!?


 大学の授業も終わり自宅に帰ると、リビングで妹のゆいがテーブルの上に教科書とノートを広げて勉強をしていた。

 今までリビングで勉強をする唯を見たのは生まれて初めてだ。

 

「ただいま唯。偉いな勉強をして」

「お帰り。宿題を出されたから、早く終わらせたいと思ってね」

「関心関心。それで何の宿題を出されたんだ?」

「社会だよ」


 こうは宿題のプリントを手に取り、問題文を読みながら唯の書いた回答を見ると、

「なあ、唯。この宿題の問題は、ちゃんと考えて解いたのか?」

と顔を引きつって答える。

 すると唯は胸を張って自信に満ちたように答えた。


「当たり前じゃん。全部間違えてないと自信があるよ!」

「全部間違ってるわっ!」

 

 テーブルが粉々に粉砕するかのように、恍はプリントを叩きつけた。


「えっ! そんなはずはないよ!」

 

 慌てた表情でプリントを穴が開くほどマジマジと見る唯の姿に恍は、深いため息を流す。


「それじゃあ問題な1853年黒船乗って日本に訪れた外国人の名前は?」

 答えはマシュー・ペリーなのだが、唯はとんでもない回答を告げる。

 

「そんなの簡単じゃん答えは〝黒髭くろひげ〟だよ」

「……」


 さすがの恍も、この回答にドン引きする。

 江戸時代まで黒髭が生きていたとしたら百七十三才にもなる。不老不死でもない限り、その年まで生きるのは不可能。


「それじゃあ最後に巌流島で戦った二人の武士の名前は?」


 答えは宮本武蔵と佐々木小次郎。日本人なら絶対知らなきゃいけない人物だ。

 さすがにこの問題はわかるだろうと恍は思っていた。


「え~と、『』と『』ウだったよね?」

「――誰だよっ! 聞いたことねえよっ!」

(――こいつ宮本武蔵のという漢字が読めないとは……それにってどこの人物だよ)


 自分の間違えに慌てる唯の姿を見て疲れると言うよりは、可愛いくてどうしようもなかった。


「しょうがないな。頭も良くてカッコいいお兄ちゃんが付きっきりで教えてやるよ」


 こうして、唯にマンツーマンで勉強を教えることになった。

 ただ平常心を保ちながら唯に教えることは恍にとって、とても過酷だと、身をもってすぐに知ることになる。


「いいかよく聞け、鎌倉時代は――」

「ふむふむ、なるほどなるほど」

 

  本当にわかっているのかわからないが、首をコクコク上下に振る。


「うん。先生の説明よりお兄ちゃんの説明の方がわかりやすい」

「グハァッ!」

 唯の笑顔で危うく昇天しそうになる。

 美しい女神が微笑むような可愛らしい唯の笑顔を見たら、世の男性は魅了され、とりこにされてしまうに決まっている。


「どうしたの? 顔赤いよ」

「そんなの決まっているだろ。唯の笑顔を見てしまったせいで、俺の性欲が暴走しかけているんだ」

「それ……普通に気持ち悪い」

 

 無性に嫌がる唯の姿を見て、欲望の限界がきた。

 いきなり立ち上がり、何のためらいもなく服を脱ぎ始めた。

 

「――お兄ちゃん! 何で服を脱ぐのっ!?」


 急に服を脱ぎ始める恍に、唯は手で顔を覆い被せ、慌てふためく。


「もう我慢の限界なんだ。俺の童貞をもらってくれっ!」


 急に意味の分からない台詞を吐く恍に、唯はますます恐怖がこみ上がる。

 悪質な変質者のようにリビングで全裸になり、そのまま唯に掴みかかろうと腕を伸ばす。

 

「おまえも全裸になって処女を卒業しろっ!」

「嫌だよっ! あっち行け変態っ! 露出魔っ! 人間のクズっ!」

「ちょっ、最後の言葉は傷つくんですが……」


 最後の一言は恍の心に精神的な大ダメージを負わせた。

 恐怖に怯え唯は後ずさりをする。

 そんな唯を見て恍は飢えたオオカミよりも恐ろしい表情で唯に抱きついた。


「服を脱ぎたくなかったら俺が脱がしてやるっ!」

 

 唯の服を脱がそうとした途端、背後から強烈の一撃を恍の後頭部に降りかかる。

 頭が割れるような強烈の痛みに悶絶しながら、全裸の状態でフローリングに転がり続ける。


「何しているの?」


 その鋭く低い言葉を聞いた途端、猛烈な痛みが消えるほどの恐怖に恍は怯え始めた。

 ゆっくりと顔を上げるとそこには仁王立ちし、鬼のような険しい形相をする母の姿が現れる。


「……母さん……お帰り」

「何か言い残したことはあるかしら」

 

 恍の絶体絶命の大ピンチ!

 この現状をやり過ごす方法はないか、咄嗟に考えるとすぐ閃いた。


「今、唯に勉強を教えていたんだ」


 全裸の状態でニッコリと母親に微笑みかける。


〈全裸で下半身をおっ勃てながら、妹を襲う勉強がありますかっ!!〉

「保険の勉強なんだからしょうが無いだろ」


 火に油を注ぐような一言に母親はさらに 激怒する。


「話があるからこちらに来なさいっ!」


 母親は恍の耳を引きちぎるように強引に引っ張りながら、隣の客間に連れて行く。

 それから全裸で正座しながら一時間にも及ぶ辛い説教を受けるのであった。


 こんな現状で恍はちゃんと唯を高校に入学させることができるのか。

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