第3話 幼馴染み参上!


 身支度も整い部屋から出て玄関に向かうと、玄関の土間にこうの幼馴染みである城ノ内じょうのうちまきが立っていた。

 

金髪ツインテールでツリ目で美顔のゆいとは正反対の胸があまり膨らんでないスレンダーボディの女性だ。

 

「何だ、来てたのかよ」

 

 まき絵はムスッとし、腕を組んで恍を殺すように睨んでくる。

 

「何だ、じゃないでしょっ!いつまで待たせる気、罰として全裸になって橋の上から自殺して」

「朝早くになんて無粋な言葉を言うんだ、この目狐!」

 

 恍の母親と、まき絵の母親は幼馴染みのこともあって、二人は生まれたときからの幼なじみなのだが、お互いは犬猿けんえんなかなのである。


「あんたみたいな変質者に言われる必要なんてないわよ。いいからそのマヌケ面を洗ってシャッキとしなさいよ」

「とっくに顔を洗ってるわボケッ!」

「ごめんなさ~い。マヌケ面は元々だったよね~。昔からの付き合いなのに気付けなかったわ~」

 

 まき絵は口に手を当て嫌みそうに喋り、かっと燃えるような苛立ちで恍は拳を力強く握りしめる。


「早く行くぞクソ女ッ!」


 まき絵に悪口を言った瞬間、

〈あんたっ! まき絵ちゃんになんて台詞を吐くのっ!!〉

 と母親に大喝だいかつを浴びせられ、力強い拳が恍の頭めがけて叩き付けた。


「イテテ……何すんだよ……」

「女に暴言を吐くなんて最低だよっ!」

「先に言ってきたのは、まき絵の方だぞ」

 

 頭を両手で押さえながら母親に反論する。


「いいんですよ、オバさん。わたし全然気にしてませんし」

 

 まき絵は苦笑いしながら母親をなだめる。


(俺の母親には良い子ぶりやがって、ぶっ殺すぞブス女!)

「何か言った?」

「……何も言っていません」

 

 恍の全身が悪寒した。

 笑顔の表情で恍に告げたまき絵の目が笑っていない。むしろ身体の周りから凍死させるような冷たい殺気を放っている。

 

「ごめんなさいね。ウチの馬鹿息子がまき絵ちゃんに失礼なことばかり言って。この子の頭は勉強以外、何も考えていないから」

「勉強ができる恍君はすごいと思います。私も見習いたいです」


(――どの口が言うんだこの女ッ!)


「もう、まき絵ちゃんみたいな可愛い子がウチのお嫁さんになってくれれば助かるのに」

「……そっ……そんな……私なんかが……」


 熟したトマトのようにまき絵の頬は赤くなる。


(やめてくれっ! 気持ち悪いんだよっ! おまえがそんな顔をするのはっ!)


 頭を抱えながら心の中で恍は叫ぶ。


 フッと腕に付けていた時計の針を見るとそろそろ大学に登校する時間だ。

 

「早く行くぞっ! 遅れるっ!」


 口うるさいまき絵と一緒に家から出て大学に登校したのだ。


 緑豊かな並木道を二人で歩いていると、まき絵は唯の事を尋ねてきた。

 

「ねぇ恍。唯ちゃん、もうすぐ受験だよね。どこの高校受けるの?」

「わからん。そもそもどこの高校も入れないかも知れない」


 まき絵の顔が驚きの表情を見せる。


「それってどういうことっ!?」

「この前のテストが全科目が合計で十点だったみたいなんだ」


 さらにまき絵の顔がお化けを見たかのようにビックリして目を見開く。

 誰だってそういう顔になるのは必然的だ。受験まで、あと半年しか無いのに全科目が合計で十点しか取れていない、と言われたら誰しも驚く。


「あと半年しか無いんだよっ! 唯ちゃんどうするのっ!」


 自信満々に恍は胸を張る。


「俺が家庭教師をして唯をそこそこの高校に入学させてやる」

「…………」


 じっと自分を見つめるまき絵の視線がふと気になる。


「何だよ、そんな目で俺を見やがって」

「あんたが唯ちゃんにタダで教えるわけ無いと思ってね」


 ギクッと恍は肩を震わせた。


「やっぱり。でっ、唯ちゃんに何の条件を突き付けたの。まさかいやらしい条件じゃ無いわよね」

 

 恍の顔をマジマジと見つめてくるまき絵の姿は、まるで取調室で刑事が犯人を突き詰めるような光景だ。

恍は目をキョロキョロ泳がせながら、

「べっ、別に条件なんて……だしてないし……」

挙動不審きょどうふしんに話す。

 

 まき絵は拳を握りながら恍を突き詰める。

 

「怒らないから白状しなさい」

 

 この時点で怒っているがそれを言うと殴られると思い。仕方なく唯に告げた条件のことをまき絵に説明した。

 すると稲妻の如し恍の頭上にまき絵の鋭いかかと落としが炸裂する。

 恍はそのまま地面に倒れ、頭を抱えて悶絶し出す。

 

「あんたバッッッッカじゃないのっ!! そんな条件を唯ちゃんに突き付けるなんて最低よっ!! このシスコンバカがっ!!」


 角を生やした、まき絵は燃え上がる炎を吐くように恍を叱る。


「キスぐらい問題ないだろ。アメリカではキスは挨拶の一つだ」

 

〈ここは日本だっ!!〉

 

 今度は恍の顔面にまき絵の鋭い膝蹴りがクリーンヒットする。

 公共の面前で激しい暴力行為をするのはこの女くらいだろうと地面でもがき苦しみながら思う恍であった。


「まあ、おまえに何て言われようと、唯はこの条件を呑んだんだ。精一杯マンツーマンで教えてやらないとな、。プクククッ」

「何でこいつ警察に捕まらないのかしら……」

 

 気持ち悪い笑い声を出しながら妹に対しての如何わしい事を考えている恍に、まき絵はドン引きする。

 

 そんな性犯罪者(仮)とまき絵は大学に登校するのであった。

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