第2話 変態兄貴の取引条件とは!?


 食事を済ませたこうは自室に入り大学の登校するための身支度をしていたらコンコンとドアのノック音がする。

 

予想はしているが「誰?」と再度尋ねてみると案の定ゆいだった。

 

「お兄ちゃん……」

 

 ドアの向こう側から唯は消え入りそうな声でぽつんと言う。

 

「唯か、入っていいぞ」


 チワワみたいに瞳をウルウルさせながら入ってきた。

 

「……お兄ちゃん……」

 

 自分の両手を握り絞め助けを求めるような上目遣いで恍を見つめる唯を抱きしめたい気持ちになる。

 

「どっ、どうしたんだ唯?」


唯との至近距離のせいで恍の心臓の鼓動が激しい荒波のように高ぶる。

 

「テストが近いし、今の私じゃどんなに一人で必死に頑張ってもいい点数なんて取れない。だから勉強をやっぱり教えてほしいの」

 

 懇願する唯に何かを企み出した恍はニヤリと頬を引きつけた。

 この気色の悪い笑みで、何を企んだかわかるはずなのに、それを気付かない唯は相当切羽詰まっているのだと確信できる。

 

「あれ? 寝ないで勉強すれば良い点取れる、と言った人はどこの誰だっけ?」

 

 うっ、とうめき、苦虫を噛みしめたような顔に唯はなる。

 

「さっき、お母さんから次のテストの点数が五十点以下だと高校入学するまで、お小遣い禁止って言われたから……」

(五十点以下って……母さん甘いな)

「今の唯じゃ、どこの高校にも入れないから永遠にお小遣い禁止だな。」

「だから、お願い。可愛い妹の為に勉強を教えてっ!」

 

 両親は公立と国立以外の高校入学は禁止している為、今の唯の学力でいける高校はまず無いに等しい。

 

「もちろん可愛い妹の為に教えてやるよ」

 

 唯の頭をいやらしい手つきで愛撫でする。

 いつもは手が触れるだけで顔面を強烈な拳や蹴りが飛んでくるのに、今日はすんなりと触らせてくれる事に、恍は驚いた。

 この手は当分洗わないと心に誓う。

 

「やったー! ありがとう、お兄ちゃん。だっ……」


 〝大好き〟というワードを言いそうになり唯は咄嗟に口を塞ぐ。

この変態兄に、この危険なワードを口ずさむと変な気を起こすんじゃないかと身の危険感じたからだ。

 

「――

 

 その言葉に唯は警戒心を抱く。兄の事だから如何わしい条件を突き付けるに違いないと予想はしている。

 

「……条件って何?」

 

 恐る恐る唯は話す。

 

「もしテストの点が五十点以上だったら、俺と〝キス〟をしてくれ」

 

 唯の予想は見事的中した。

 

「違う条件にして!」

 

 額に冷や汗を滲ませながら顔を青白くさせてその条件をこばんだ。

 

「それじゃあ、

「よけい嫌だよっ! むしろ条件が酷くなっているよっ!」

 

 恍はさらに強烈な要求を告げ、唯は慌てて否定する。

 

「それじゃキスだな。嫌なら諦めて一人で勉強をしてくれ」

 

 強者の顔をする恍に唯は奥歯を噛みしめる。

 

「わかった。その条件呑むよ」

「ストリップか?」

 

〈違うっ! キスのほうっ!!〉

 

 大音量で流すスピーカのように大声で叫びながら恍の顔面に強烈な右ストレートをかまし、唯は部屋から出て行った。

 

「この条件を呑むなんて、よほど切羽詰まっているんだろうな……」

 

 そう思いながら、まだ痛みがある顔を手で押さえながら身支度を始めた。


 人に教えたことがない恍は、唯に勉強を教えてテストの点数を五十点取らせることができるのか実際不安がつのる。

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