『いつでもこれから』
今日も一日疲れたなぁ
昨日も今日もそして明日も
私はきっと同じことをしている
でも私には分かっている
今していることをいつまでも続けれるはずはないと
分かっているのに
今のことしか考えられない
ってか考えたくないんだろうね
確実な未来なのに信じたくない
思いを巡らそうとすると頭痛がする
確実に指名が減っている
歌舞伎町お水の世界は競争社会
あからさまな実力主義
最近妙に疲れてきた
作り笑いも下手になってきた
私は、自分のしている仕事が卑しい職種だと思ったことはない
ただ、何となく分かることがある
私には、向いていないということ
現状維持を理由にズルズルとつづけても
どこかで破綻が来るだろうこと
マンションに帰った私は疲れきった体を横たえる
今日はアイツは来てないな
ホストクラブで知り合った彼
出会った頃の彼はお店のNo.2で
見てろよ そのうちオレが一番になってやる
そう豪語する彼は魅力とパワーに溢れていた
でも、今ではもうろくに出勤もしていない
私にお金をたかりにきてはご飯食べて私を抱いて泊まっていく
彼は私が養っているようなものだ
いつかはこの関係を清算しないといけないと思っている
当たり前だよね
どう考えたってきちんとした将来を考えた男にはならないんだから
なのに仕事のことと同じで
何とかしようとなかなか思えない
ズルズル ズルズル
合鍵を与えてしまっているから好きな時に彼はうちへ入れる
マンションのドアを開けてアイツがいないとホッとする私がいる
やっぱり私ってヘン
何で自分の本当にしたいことができないんだろ
何で自分のあまりしたくないことがやめられないんだろう
あれ
そういえば
私の本当にしたいことって何だろう?
私をいじめないで
それ以上言わないで
本当は分かってるのよ
今のままじゃダメだって
でもどうすればいいわけ?
私には分からない
いいえ もしかしたら分かりたくないだけなのかも
多分怖いんだね
この世は闇
一歩踏み出したその先が平らな地なのか落とし穴なのか
踏み出さないと分からない
保証がないと怖くて自分からは何もできないなんて
私って何て愚かで自分本位な生き物なんだろ
ホラ 一応分かってるんだからさ
それ以上私に何か言うのはやめて——
……夢か
起きた私は機械的に身支度をし 食事をし
怠惰のゆえに片付かないマンションをあとにする
私は都会の雑踏の中にとけこんでいく
また今日も代わり映えのしない一日を選択してしまった
きっと私は選びたくても選べなくなる日が来るまで
同じことを続けているような気がする——
開店前のキャバクラの控え室
ついていたテレビを何気なく眺めていた
私のよく知らない何かのドラマ
人というのは一人では生きられない
人間は人の間と書くだろ
自分以外の誰かの存在が大前提になっているんだ
人は必ず誰かのために
誰かの役に立って生きている
それができなくなった時
もしくはそれを放棄した時
その人は人であっても人間でなくなる——
教師役の俳優が、生徒相手にそう熱く語っていた
まぁ道理だね
誰でも自分ひとりの力で生きているんじゃない
ひとりで生きてる気がするけど私もそうか
食べるもの 身につけるもの 家にあるもの
全部社会の誰かさんが作ったもの
ひとつとして自分の手によるものはない
テレビも映画も雑誌も——
誰かが考えて作ったものを受け取っているわけだ
そう考えたら確かに私一人では生きてはいないことになるな
でも
何かが違う
そういうことじゃなくってね
もっとこう——
心が熱くなるような
ほとばしる充実感が得られるような
どんなに愛しても疲れないような
そんな特別な関係
もともとひとつだった魂のもう半分
……いいなぁ
欲しいよぅ
でも今の彼はね…
私は他のキャバ嬢に見られないよう顔を壁に向けた
涙がひとひずく ふたしずく
瞳からあふれ出ちゃったから
それは何がきっかけだったか未だに謎だ
疲れきった体を引きづり
指名も取れず店長からチクリとする一言を言われ
打ちひしがれた心から血を流していた帰り道
駅の構内で私は吸い寄せられるようにそれを見た
何だかね
周りが暗くてそこだけ光っていたの
現実にそんなことあるわけないんだけどね
私にはそう見えたの
私は自分でもビックリした
何でそんなものに興味を引かれたのか
でも
その内容は私の魂を矢のように貫き
私の全身がブルブル震えた
これは運命なんじゃないかと思った
『青年海外協力隊 参加者募集』
……何だろう。
今、ものすごく心が震える。
まさか
私が……やるの?
マジですか
神様
こんなに涙が出るのは
こんなに心が燃えるのは
そうしろってことですか
運命なのですか
私には栄養士の資格がある
結局自分を見失ってお水に来ちゃってたんだけどね
ひとりの小さな手 何もできないけど
それでもみんなの手と手が集まれば
何かできる 何かできる
昔習った歌を思い出したよ
遅くはないですよね
今からでも私 燃えれますよね
輝けますよね
誰かに必要とされる人に 誰かを笑顔にしてあげれる人に
人の間 つまり人間になれますよね?
いつだってこれから
そう信じていいですよね
賭けてもいいですよね——
クリアすべき問題と現実の壁はあるけれど
私はもう派遣が決まった気でいた
やるよ
私は変われるんだ
愛することも愛されることもあきらめていた私の胸に
一輪の花が咲いたよ
とてもとても小さな花
でもとっても可愛い花
そして嵐にも折れない強い花
私の心はすでに遠い国へと翼を広げて飛ぶ
すぐ行くからね
待っててね
私の大事なみんな
そして私の愛する人
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