『不死鳥』
私は地の底にいた
上がどこまでか果てしなさすぎて分からない
ただここより下はないほどの下だということは分かる
私は地の底から呼ばわった
誰かいませんか
この声聞いてくれませんか
どうやったらまた上のほうに這い上がれますか
お前さん何やってるね
……あなたは?
地の底の地面だよ お前さんが伏せっているから重い
あとお前さんが泣くから涙がしみてしょっぱい
……ごめんさない
ムダだよ
ここからお前さんの仲間がいる高さまでどんだけあると思っている
普通に叫んでいたんじゃムリムリ
……何か方法はないかしら?
うーん
ないことはないが お前さんにその根気があるかどうか
かなり気の長い話になるぞ
……構いません 他にここでできることもないし
私は地面に自分の失敗や罪を隠さず話して聞かせた
そして私が本当に後悔しているということも
地面は根気よく話に耳を傾けてくれた
私のいるすぐ横は はるか上の地上に続く絶壁になっていた
自分の力ではよじ登ることはできない
話をすべて聞いてくれて味方になってくれた地面は
絶壁を構成する一番近くの岩に私を紹介してくれた
おい 面倒をかけてすまないがこの子の話を聞いてやってくれ——
私は地面にしたのと同じ話をその岩にした
するとその岩はすぐ上にある岩に私のことを話す
その調子でどんどん上のほうにある岩が私に話をさせる
どうやら距離はどんなに離れていても聞こえるようだ
みんなまとめて聞いてくれたらいいのにと思ったが
そうはいかないようだ
私は同じ話を飽きずに そして変わらない悔恨の情を込めて
数万個の岩に数万回語った
5年の歳月が地底で流れた
そしてついに空が触れる地上にある岩にまで私の話は伝わった
7年目
暗闇に一筋の光が差した
何だろうあれは
小さな小さな光の点から何かが降りてくる
縄だ
恐ろしい長さのそれはついに私の目の前まで垂れ下がってきた
つかまりなよ
これでお別れだ
また会いたいけど二度と来るんじゃないぞ……
微妙なニュアンスをにじませた地面のお別れの言葉
長い間ありがと
7年間の付き合いの地面や地底の岩たちに別れを告げる
ありがとう ありがとう
縄に私がしがみつくと
それはスーッと上に引き上げられていく
今まで小さくしか見えていなかった点のような光はやがて大きくなり
私の全身を包んだ
今まで闇に慣れた目はまぶしさに痛みを感じた
私を引き上げてくれたあの人は語った
一番地上に近い岩に私のことが伝わったその後
一年の歳月をかけて私のことがあの人に伝わった
岩はそばの木に語り
木は枝に宿りにきた鳥に語り
鳥は海を越えてさらに風に語り
風は山に語り
山は雲に語り
雲から雨が降って草に語り
草は蝶に語り
蝶はヒラヒラととんであの人に——
そしてさらに一年を悩んであの人は私を引き上げに来た
僕は君を完全にゆるしたわけじゃない
でも君が悔いているのは認める
君を再び受け入れるのに時間はかかるかもしれない
でもやはりほっとくよりは助けたいから私はここに来た——
いいんだよ
ゆるしてくれたら当然うれしいけど
それは私が要求することじゃない
どっちだって私は受け止めるよ
ただね
宇宙ほどの距離があったあなたに私の声が届いたこと
それがね
一番……
ウレシカッタンダ。
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