『永遠への戦い』


 何でこんなにあなたが好きなんだろう


 この気持ちは何


 あなたというレンズを通すと


 世界のすべてが違って見える


 それは七色の世界


 神秘と幻想のプリズムが


 私の目に無数の矢を射掛ける


 まぶしくてまぶしくて私は涙を流す


 ああ


 もしかなうことならば


 永遠の時間をあなたと過ごすことができたなら


 他に何もいらない


 すべてを失っても構わない


 富も地位も お金も家も持ち物一切をも




 バカ


 見てられない


 何ておめでたい人たち


 バカな若造どもが何かエラい者にでもなったかのように


 聞きかじったような愛の断片にもならない幼稚な感情をもてあそんで


 恋愛ごっこをしているよ


 死ね


 死んでしまえ


 大いなる錯覚だ


 私はこんなにあの人が好きですー と言う


 恥も臆面もなく


 実は自分が満たされたいがため相手を利用しているということに気づかずに


 相手が世界中の何よりも好きと言いながら


 心の皮を一枚一枚むいていって裸にすれば


 実は自分自身が一番好きだったという罠


 希望など持つな


 絶望しろ人類よ


 人間は確実に破滅の方向へ向かっている


 一歩一歩、確実にな



 


 蛇の子たち


 淫虐の申し子


 自己中心の権化


 お前たちの作る世界と住む地球は


 お前たちの醜い心と同様に


 あらゆる種類の汚物で汚されている


 ああ 災いだ


 災いなるかな 人間ども


 お前たちの愛など ゆるい地盤に建てられた家と同じだ


 大雨が降り濁流が押し寄せると


 それはもろくも一気に押し流されてしまう


 そしてそのつぶされ方は ひどい




eet4

 


 イヤ イヤよおおおおお


 何でそんなこと言うの?


 それ以上言わないでえええ


 私のことほっといてよ!




 逃げるな


 ホラホラ お前の好きと言う感情はどれほどのものなんだ


 眼をそらすな


 命への冒涜だ


 肉欲じゃあないか


 何か高尚な気分に浸っているのは大いなる錯覚だ


 人は誰も見ていないところでこそ本当の自分を出すじゃないか


 恥ずかしいことが平気でできるじゃないか


 さぁ 見せてみろ


 お前のむき出しの心を


 何も飾らない、お前の醜い醜い心を




 何が真実の愛だ


 聞くだけで反吐が出る 


 どうだ 認めてみろ


 相手の顔と背格好が崩れてみろ


 見るも無残な顔になってみろ


 ああ あんなに私の自慢だった彼が


 横につれて歩くだけで皆が振り返るあの彼の顔が——

 



 お前は彼を離れるだろ?


 心配するな


 この私が彼を交通事故に遭わせてあげる


 グシャグシャにしてあげる


 楽しみだなぁ


 お前がどんな顔をするか


 何ヶ月くらいで お前が彼を見舞わなくなるか


 何ヶ月くらいで お前が新しい男をつくるか




 おまけでさ 私が彼を事業に失敗させて一文無しにしてあげる


 楽しみだなぁ


 苦労はイヤだろ?


 ちょっとランクは落ちても経済的に不自由のないほうがいいだろ?


 事故の規模を大きくして一生介護が必要な体にしてやろうか?


 お前は、自分の時間が欲しくても 遊んで跳ね回りたくてもできない


 ベッドの脇に縛りつけてやる




 どうだ


 それでもお前は彼と一緒になれるか?


 それでも愛するか?


 何 それじゃまともな結婚生活にならない?


 それが分かってて結婚などできない?


 まぁ それがこの世だと普通の神経だぁな


 誰もお前を責めない


 だが 私は責めるぞ


 じゃあ お前が彼を好きというその気持ちは一体何なんだ


 この世で最高の気持ちだー と今お前が浸っていたいい気分


 おい 逃げるな


 眼を覆うな


 見ろ


 突き詰めればお前の永遠にでも彼といたいという気持ちは


 私がこれからしようとしていることくらいで崩れ去る程度のものなんだな? 


 さぁ 死ね


 人間なんて世界にいないほうが平和なんだよ


 どうせ未来にも戦争と不幸と性的堕落を繰り返すだけなんだろ?


 消えろよ


 ホラ


 なにグズグズしてるんだよ


 お前の愛など汚物まみれなんだよ!




 やめてええええええええええええ


 私は打ちのめされた


 確かに私は愛に対して命に対して甘かった


 バカで愚かな一人の女に過ぎない


 私は醜い


 自分が満たされるために彼を好きな部分があることは否定できない


 でも


 それを認めたうえでも


 私の中には何かが残った


 その残った何かにすべてを賭けて


 私は悪魔に勝負を挑んだ




 去れ


 お前に何の権威があってそのことを言うのか


 自己中心の権化


 淫乱の申し子はむしろお前のほうではないか


 確かにお前の言うことにも一理あろう


 人間は愚かだ


 間違いも犯す


 知能のわりに精神的には幼い過ちを犯す


 おもちゃのような愛を振り回して傷つき傷つける男女もいる


 自分の気まぐれで愛が冷めたり


 思い通りにならないとかえって憎むことすらある


 それが現実


 でも


 人間には美しい部分もある


 いや


 言い換えれば


 人間はその悪や罪を克服しさえするならば


 これほど美しい存在は他にないのだ


 その美しさには


 どんなに綺麗な野花も そして宇宙さえもかなわない




 ……フン えらそうなことを


 お前は自分の醜さを認めた上でなお生きようというのか


 なお 絶望の中から希望を見出そうというのか


 何とも気の長い話だな




 ……いいんです


 どんなに長く時がかかったとしても


 最終人類がどんな方向に向かうとしても


 私たちが気づかないだけで 伸ばさないだけで


 実は素晴らしい宝がすべての人間の心にあるの


 私はそれを信じる


 どんな目に遭っても


 どんな悲惨が襲っても


 どんなに自分の不幸を呪うような境遇が襲っても


 私は人間を信じる


 そして何より私自身を信じる



 


 悪魔よ


 お前の負けだ


 お前は私を試すために彼に不幸を降りかからせると言った


 でも私はお前に膝を屈しない


 やる気ならやるがいい


 そう言いながら正直私には自信がない


 自分は弱い人間だ


 まったく気持ちが揺らがない というと嘘になる


 でも でも


 私は挑戦してみようと思う


 お前に勝つか負けるかは分からない


 でも だからといって


 勝負する前から負けを認めることだけはすまいと思う


 だって


 人間には絶対に素晴らしい愛もあるのだから——




 ……言ってくれるな


 分かった


 ひとまずお前のもとを離れよう


 ちなみに さっきの話


 お前の彼をどうこうっていうあの話はウソだ


 お前を試すためのハッタリさ


 いくら私でも そこまで勝手はできないのさ


 神じゃないからな


 でも覚えておくがいい


 私が手を下さなくたって何が起こるかわからないのが人間どもの世界


 お前たちは勝手に自滅するかもしれない


 いつの日にか今まで見えなかったお互いの嫌な部分が見えてきて


 自分たちの意思で別れるかもしれない


 もしくは仮面夫婦で生きるかもしれない


 その時こそ私はまたお前の元に戻ってきて


 思いっきり笑ってやる


 それ見たことかと


 だから その日まではおさらばだ




 楽しかったぞ人間の女よ


 久しぶりに手ごたえのあるヤツと話せた——




 それっきり悪魔は姿を消した




 私はあきらめない


 時々人の弱さと醜さに目の前が暗くなることもあるけれど


 私は人の中の光を信じる

 



 さぁ 彼に会いに行こう


 今日も彼を思いっきり愛そう


 私は恐れない


 彼ではなく 彼という命を見つめよう


 彼という魂を見つめよう


 そこから 悪魔の問いに打ち勝てる何かが見つかるはず




 私の戦いは今始まったばかりだ——

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