『命のパン』

  

 やぁ おいしそうだね 


 結構するだろ? 今日は奮発したね


 エッ


 今日はお一人様?


 それ、全部一人で食べるの……





 すごく綺麗な、絵のような料理だね


 エッ


 食事が進んだら別れ話切り出すつもりなの?


 そう……


 浮気の決定的証拠を押さえちゃったんだ


 でもさぁ


 せっかくの料理、そんなにカッカして食べたら——



 


 生きるために


 日々食物を口にする


 食べなければ死ぬ


 だから食べない人はいない


 食べることは人間の楽しみのひとつ


 おいしさを 見た目の豪華さを 新しい味を追及し


 日々グルメ界の戦いは熾烈を極める





 どうしたの


 食べるものがないの?


 ないのなら、どこかにないの?


 誰もあなたを助けてくれないの?


 エッ ある所にはあるの?


 なのになぜあなたには——


 お金がないの?



 


「じゃあお金って、どこにあるか知ってる?」


 何と答えたらいいか、私には分からない。


「お金はね、たぶん遠い国にいっぱいあるんだよ」


 その遠い国に属する私は、相手の顔をまともに見れない


 でも、かわいそう……なのかな?


 そういう単純な問題なのかな?


 食べ物のありあまる国と食べ物の不足している国


 私たちは恵まれすぎている?


 果たして、ほんとうにそう?



 


 やぁ


 今日のご飯はなんだい?


 トウモロコシの粉のおかゆなの


 でもね、最近トウモロコシも高いんだって


 これだっていつまで食べれるか分かんない


 でもさ、君たちすっごく幸せそうだね


 うん


 だって私ね、お兄ちゃん大好きだもん


 お兄ちゃんと食べるトウモロコシのご飯は世界で一番おししいよ


 他のものあんまり食べたことないから、分からないけどね


 そう言って女の子は笑った





 美味しいものを食べてたって


 人を殺す


 人を憎む


 自分の利益のために人に不利益を与える


 自分に利益を与えてくれる者しか愛さない


 そんな人間が


 食べ物でもって命を永らえさせてもらって


 何か意味がありますか


 裏で沢山の人が飢え死にするこの世界で


 あなたが十分な栄養で養われるだけの意味がありますか


 その値打ちがありますか


 あなたの人生はは飢え死にする人以上に値打ちがありますか





 これは、あなたという命の値打ちを疑って言うのではありません

 

 どんな命も、鼻から息をしているだけでその価値は完全です

 

 ただ、せっかくこの世に参加させてもらっているのだから——


 もしそうなら、もったいないと言っているだけです





「今日は、引越し手伝ってくれてありがとね!」 


「ああ? まぁ、お安い御用って、ところさ」


「今見ての通りゴタゴタしててね、こんなものしか用意できないの」


「おっ、おにぎりじゃん。これ、君が握ったの?」 


「一応。塩加減とかちょっと自信ないんだ……どう、ちょうどいいかな?」


「うん、うまい! これ最高だよ」


「そう。ありがとう」


「……あのさ。そう見つめられると、食べにくいんだけど?」


「だってぇ。あなたがあんまりにも幸せそうに食べるもんだから——」




 私たちは食事だけで生きるのではない


 人からの好意を 愛を 思いやりを食べて生きている


 人に与えた時も同じものが自分に返ってくる


 私の心が食事をしている


 富んでいても生活に不自由がなくても


 魂に富まない者は魂の餓死者になる


 どんなに不自由でも苦しみに中にあっても


 種粒ほどの愛が心に植わっているのなら


 その人は何があっても守られるべき世の宝だ





 命のパン


 それは愛し愛される想いのパンに


 大切に想い合う心のバターを塗った


 世界で最高の味のする食べ物


 特別な材料もいりません


 特別な調理法もありません


 気持ちひとつですぐに提供して上げられる


 この最高の食物を


 どうか誰かに食べさせてあげてください——

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