『お前の負けだ』
地に打ち倒された
体中から力が抜けた
蹴られるがまま 踏みつけられるがまま
切れた口の中に鉄臭い味がする
土を食わされた私の舌がザラザラする
また負けた
立ち上がることもできない
鈍くなった私の心は考えるべきことに向き合うのを放棄し
何かから逃げるように、とりとめのない虚しい考えに思いをくゆらす
私は餓鬼
食に飢えていないがむさぼるように食べる
口から食いちぎった肉片がはみ出す
よだれのように酒が滴る
足りないぞ
もっとないのか
吐くまで食べると私の舌はチロチロと口の中を飛び出る
私の中の蛇は獲物を探して淫魔の市を徘徊する
自分の意思ではなく、何かに突き動かされるように
喰いちぎる 舐め尽くす 貫き通す 吠えたける
何人もを腹の中に納めた私は 鈍い倦怠感の中横になる
淫虐で人の欲まで体内に取り込んだ私
初めよりもっとひどい地獄の子になった
牙が生え目の釣りあがった私は高らかに宣言した
生きる? どうだっていい
愛?
私は自分がだ~い好き
それを愛と呼んでいいなら、うん確かにこの世には愛がある
愛で満ち溢れてるね
バンザイ
あなたもどうかしら
嫌なことはみんな忘れて
おいしいもの食べない?
たくさんあるのよ
満腹になっても、吐いたら何度でも食べれるのよ
それより、ほらここ触って
私を抱きたいんでしょ?
遠慮しないで
何を聖人ぶってんのよ バカバカしい
あんたの本性くらい知ってるわよ
ごまかさないで自分に正直になりなさいよ
何十回 何百回 何千回
私は負けただろう
闇へ誘う内なる声に負けただろう
その道は入るのに簡単で
口に甘く 刺激的で すべてを忘れさせてくれる
しかし 一時の絶頂が過ぎると苦さを思い出すので
それをさらに忘れるためにさらなる深みに入ってゆく
深く分け入りすぎてもう入り口には戻れない
あきらめにも似た感情が私にもう立たなくてもいいよと囁きかける
もうお前には無理だ
立ち上ってもどうせまた負けるんだ
それなら、もうこのままのほうが楽だぞ
もう何も考えるな
私は大の字にひっくり返ったまままぶたを開けた
何だろう
かゆいな
手が届いてかけるかゆみじゃない
泉の水がこんこんと湧き出るように
私の体のどこかが叫んでる
9割強を占める私の中の闇に闘いを挑もうとしている
しゃらくさい
そんなもの握りつぶしてやる
……あなたは、いたずらがバレて親に怒られるのが怖くて物陰に隠れる子どもに似ているわね
やぁ 懐かしいなぁ 久しぶりだね
私は目を細めた
……あなたが気にするほど、親は怒っていないものよ
そんなこと信じられない
……ひとこと、心からの言葉を言えばそれでいいのよ
やめろ
正気か
私を抱くなんて
汚いのに
泥と淫液で悪臭まで放つこの私を
そうは言いながら私はその体を振りほどけなかった
ああ気持ちいいなぁ
ああ何だろう 一切の汚いものが押し流されていくこの感覚は
どこか懐かしいところへ帰ったようなこの安らぎは
お立ちなさい
顔を上げなさい
知っていますよ
お前がどんなに苦しんできたのか
どんなにしたくないことに振り回されたか
欲の杯を満たせば満たせば満たすほどに
お前の魂の底の叫びは大きくなっていったことを
1000回倒れたのなら1001回立ち上がればよいのです
1万回倒れたのなら1万1回立ち上がればいいのです
100万回倒れたのなら100万1回立ち上がればいいのです
……今までごめんなさい
あつかましいかもしれないけど、もう一度頑張らせてね
私は立ち上がった
私の頭をギリギリと踏みつけてくる闇の使いをひっくり返し
こぶしで頭を砕いてやった
なぜだ
クソ以下のお前が生意気な
どうせまた戻ってくるさ
どうせまた腐ってオレにひれ伏すさ
そしてまた己の欲の升目を満たすことになるさ
そうかもしれない
言うとおり、私は立ち上がってもまた負けるかもしれない
でも、負けても私はまた立ち上がる
何度でも
何度倒れても、最後に立ち上がっていれば私の勝ちなんだ
だから、今は負けてるようでもいつかは勝つ
絶望よ
苦痛よ
貪欲よ
世にある光にかけて
希望にかけて 喜びにかけて
私は宣言する
お前の負けだ
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