『石』


 石は思った


 私ってばゴツゴツしている


 角だらけじゃない


 いびつな形をしているし


 これじゃあいけないわ


 磨かなくっちゃ


 きれいにならなくちゃ




 石は頑張った


 時には泣きながら


 時には自分を殺しながら


 角を取るたびに血が流れた


 



 長い年月をかけてやっと


 丸くなった


 キレイになった


 でも そうなってみて気付いたことがあった





 キレイな石は世の中にたくさんある


 でも


 みんな同じような色


 みんな同じ形


 磨かれすぎてみんなちっちゃくなった


 何だかみんな同じに見えて


 違いなんか分からない



 


 石は今の自分の姿を見た


 確かにキレイにはなったわ


 みんなと同じようになったから安心


 一人だけおかしいということはない


 でも


 初めの大きさの四分の一になった


 磨きすぎて他の石と違うところがなくなった


 私って何


 何が私であることの証しなの





 ありのままの自分っていいなぁ


 私たちは一人で生きているんじゃない


 当然合わせなきゃいけない部分はある


 角を取らないといけない部分はあるだろう


 



 でも


 私は私でいたい


 本当の自分でない自分を装って


『これが本当の自分だ』なんて自分に言い聞かせて


 自分と向き合うことから逃げたくはない

 



 ねぇもうよそうよ


 ムリすることなんかないよ


 あなたはアナタ


 みんな形が違っていい


 デコボコも複雑な形もあってもいい




 ありのままの自分を受け入れられる人は


 ありのままの他人をも受け入れられる


 完璧であろう またあらねばならないと思いこむ人は


 相手にもそれを要求し


 満たされなければ斬って捨てる




 そこまで考えた石は


 自分がもといた場所を懐かしく思い出した


 ありのままの自分でいられたその場所を思い出して


 しばらく泣いた




 泣きつかれてから


 顔を上げた


 近くに若い石がいた


 他と違うといって 


 自分もあんな風にきれいにならないといけないと言って


 落ち込んでいた


 石は 泣いている若い石に近寄っていった



 


 泣かなくていいんだよ


 あなたはあなたのままでいいんだよ


 それが一番素晴らしいことなんだよ


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