『泣いているのは』

 女の子が泣いていた


 どうしたの?


 


 答えない


 答える代りに


 彼女の泣き声はいっそう悲痛さを増す




 私はオロオロした


 何とか慰めてあげたい


 あらゆる方法を試してみる


 笑わせようとしてみる


 お話をしてみる


 


 すべてを試しつくして私は絶望した


 女の子は泣き止まない


 彼女は伏せていた顔を上に向けた


 そのゆがんだ顔の痛ましさに、私も胸が締め付けられた




 女の子の足もとに人形が転がっていた


 見た感じ、もともとはかわいい王女様の人形だったのだろう


 でも今は見る影もない


 ボロボロであった




 あなたが泣いているのは、人形が関係あるの?


 女の子はゆっくり首を縦に振った


 そして自分が人形本人であるかのように語った




 私ね、いっぱいいっぱい叩かれたの


 私のことね、大事にしてくれないの


 私をね、ボロボロにしたの


 ふんずけたの


 痛いよう、って言っても——


 聞いてくれないの




 まぁ


 誰があなたにそんなひどいことを?


 私が言葉を言い切る前に——




 あなたでしょ



 あなたでしょ



 ああたでしょおおおおおおおおおおおおおおおお!





「いやああああああ」


 


 わたしはすべてを理解した


 それを証明するかのように——


 女の子の顔は人形そっくりに変貌した


 顔も体も擦り傷だらけになり


 そこここから血がにじみ出していた


 私はその子を抱きしめた


 


 ゴメンね


 ゴメンね


 私がやったのね


 知らなかったの


 無感覚だった




 ゴメンナサイ


 ゴメンナサイ


 ゴメンンサイ


 ゴメンナサイ


 ゴメンナサイ


 ゴメンナサイ


 私は命をかけてでも 何を犠牲にしてでも——


 この子をこれ以上泣かせちゃいけない、と思った




 しばらくして女の子が顔を上げた


 その眼はまだ涙に濡れていた


 でも


 彼女は笑った


 そして傷だらけだった彼女の顔も服も光を放って美しくなった


 私はその時の彼女の表情を一生忘れることはない



 


「あなたをもう一度信じるね」


 その一言を聞き終わるとすぐ——


 私は、目が覚めた





 私は今でも、あの夢をハッキリと思いだす


 今の私はどうだろう


 頑張っちゃいるよ


 何とか、あなたの目から見て合格かなぁ?




 これからは命がけであなたを守るからね


 絶対に粗末になんかしないからね




 大事なことを教えてくれてありがとう


 ワタシ。




 ありがとう、


 ワ・タ・シ。




 二度と 私は自分をいじめない

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