後編 イルカのショー
…って訳であやうく固まって石になりそうになった「交尾の呪い」から脱出した僕とアキは、イルカショーのプール会場に走って行ったんだ。
プール前には段々の客席があって、僕たちは前から2列目の席に座れた。
…間もなく会場が観客で埋まり、時間が来てショーが始まった。
プールを挟んで客席の反対側ステージにはスタッフのお姉さんが登場、僕たちに挨拶してプール内を泳ぐイルカを呼び寄せた。
…お姉さんがホイッスルを「ピィ~ッ !! 」と鳴らすとプールのイルカたちが次々と水面からジャンプ。観客席から歓声が上がる。
さらに2度目のジャンプでは宙返りを見せた。
着水すると観客席の最前列には水しぶきが飛んで来たけど、子供客なんかは喜んでたね。
…演し物は続いて空中に吊るされたボールへのハイジャンプタッチ。
僕とアキも楽しんでる。
イルカってのは泳ぐ姿も空中にジャンプする姿もカッコ良くて美しい。
…アキはもう眼がキラキラの少女マンガの瞳になってたもんね。
「さぁ、それでは皆さん! いよいよこれから当マリンワールドの大スター、その名もイルカのマリン君が、3メートルの高さの輪をジャンプしてくぐりますよ!…OK !? マリン君、ゴーッ !! 」
お姉さんから小魚を貰って一頭のイルカがプールのヘリに沿ってお客さんの前をぐるりと泳いでから、一気に空中へジャンプ!…見事に輪くぐりを成功させて喝采を浴びながら水中に飛び込んで行った。
「さて、次の輪の高さは何と4.5メートルです!…この高さでこの技をクリア出来るのはマリン君だけなんですよ!…皆さん、成功したらマリン君に拍手をお願いしま~す !! 」
お姉さんの言葉から、いよいよイルカショーもクライマックスに来たって感じでね。…マリン君のプール内助走もさっきより速くなってて、
「おおぉ~~~っ !? 」
観客から期待のどよめきが起こる中、ジャンプ!
空中に見事な放物線を描いて華麗に輪の中を通過した。
…僕たちも含め、客席からの大きな拍手の中、イルカショーは終了。
お姉さんが笑顔で手を振り、イルカたちが水面に顔を出し、背泳ぎ状態で客席にご挨拶。
「や~ん、イルカ可愛い~!」
…アキも満足そうだったよ。
…会場から出たら、アキがのど渇いたって言うんで、販売機で飲み物を買って二人でベンチに座って飲んだ。
ひと休みして、次は何を見ようか?と言いながら二人でさっきのイルカプールのステージの裏側の方へ歩いて行くと、イルカたちの控えプールがあって、…ショーのメインプールとステージの下を通る水路で繋がってたんだね。
そこにはショーの合間の時間、イルカたちが休んでいたんだ。
「…やぁ、イルカ君たち ! お疲れさん!」
僕がアキの前でおどけて、控えプールに二人で近寄ると、2頭のイルカがスイ~ ! とこっちに泳いで来た。
「あっ、さっきのスターイルカ君が来てくれたよ!」
しかしアキがそう言って喜んだ瞬間、
「ビューッ !!」
「ドビュッ !!」
イルカの頭の穴から水が噴射され、僕たちは直撃を受けてずぶ濡れになっちゃった。
「……… !?」
「…何これ?」
…呆然としてる僕たちの前でUターンしてイルカはまた向こうへ遠ざかって行った…。
ショーを終えて楽屋で寛ぐスターの幕間を図々しく覗いた素人カップルがウザかったのかな?
…イルカって確か海獣の中でもかなり知能が高いって言うしさ。
…結局、アキとは一年半くらい付き合って…あんなにお互いを好きだと思ってたはずなのに、つまらないことで喧嘩して別れちゃったんだよね。
二人で幸せな状態のときの記憶として、何故かこのイルカのことが頭から消えずにいつも鮮やかに脳裏に浮かぶんだ!
…今ではあの頃のアキの笑顔より、あの華麗なイルカのハイジャンプの姿の方が印象的でさ。
二人の間に、イルカは関係無いはずなのにね…。
恥ずかしい話だけど、そんな訳で僕にとっちゃ、イルカって恋と青春の象徴?…なのかな。
いや~こっ恥ずかしい!…忘れて!この話 !!
じゃ、またね!
スタードルフィン🐬の幕間
完
スタードルフィン🐬の幕間 森緒 源 @mojikun
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