六月二十一日 相丞

「愛情あふれるあきんどの町 相丞」


それがこの街の売り文句だ。


あきんどの愛情なんて信じていいものだろうか、と私は百容堂の主人を思い出しながら考える。


「金があること」が大前提にはなるが、ないわけでもないか。




生憎の雨で人通りは少なかったが、普段は投げ売りとそれに群がる客でたいそうな賑わいだそうだ。


電磁放送で見たことがあるのは、文字通り、売り子が商品を「投げて売る」姿だ。客は投げられた商品を受け取ったならば、必ず買わなければならない。しかし、その代金はこれもまた「投げて」返すのが決まりだ。


あれで代金を回収できているのか疑問で、実際の様子を見てみたかったのだが今日のような雨の日は開催されていなかった。


今日は投げ売りをやってないのかと聞いたあきんどは鼻で笑うように


「こんな人のいないときにはやりませんわ」


と言っていた。人がたくさんいなければやらないらしい。ますますよくわからない。




人のいない商店街を歩いていると、ビルの裏口で地下への階段が煌々と輝いているのに気が付いた。


目立たない場所にある割には人が何人も往来している。


私は地下に降りてみることにした。




地下には商店街が長く続いていた。地上の商店街と同じくらいの規模がありそうだった。


しかし、地上と異なる点もあった。まず、音だ。とんでもなく静かで、息を吸う音さえ聞こえてきそうだったこと。そして、匂い。酸味と埃臭さの混じったような異様な匂いが充満していた。


よく見ると、そこは商店でさえないのであった。商店のように什器が並べられているが、そこにはなにもなく、それなのに店員だけが亡霊のように突っ立っている。


そして、その前に、何もないはずなのに什器を眺めている客がいる。




とても話しかけにくかったが、勇気を出してそのうちの一人に「ここで投げ売りはしていませんか?」と聞いてみると「あんたはなんの人? あきんど? それともあいじょうが必要な人?」と逆に質問が返ってきた。


とにかく場違いな気がして、私はそそくさとその場を後にした。


階段を上るときに、その靴音を刺さるほど見られていた。




今になって思ったのだが、投げ売りで投げられた金は、なんらかのかたちであの地下商店街へと落ちている、ということはないだろうか。


それをあきんどとあいじょうが必要な人が地下で取り合っているのだ。そんな姿を地上の人々には見せることなく。

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