六月十六日 未都
昨日の日記を読み返して「まるで覚めない悪夢のなかにいるよう」という文字があったことに気が付いて驚いている。
何の気もなく発した言葉の片隅には自分の意識下では感知しえない危険の匂いが混ざっているのかもしれない。
今朝がた、突然の竜巻が街を襲った。ホテルのビルが断末魔の叫び声のように高くうなり、その音で目が覚めた。しかし、カーテンの隙間から窓の外を見て、これがまだ自分の夢であるように強く願った。家の屋根だったと思われるものや車、コンテナが悠々と宙を舞っていた。その他にも舞っているものはいくつもあったが、それがなんであるか私は解釈することを止めた。
階下でガラスの割れる音が響いた。私は窓の外を見るのをやめて布団にくるまりながらバスタブの中で震えていた。
夕方になって、やっと私はカーテンを開けた。
ホテルの部屋から見ると、昨日とそれほど変わらない光景にも見えた。
けれど、ひっきりなしに聞こえるサイレンの音が、ここが昨日とは違う場所になったことを示していた。
路地を歩くとひしゃげた看板や折れた鉄柱が落ちていた。落下物の影響か壁が崩落しているビルもある。この街本来の景観を私はついに知ることもないまま壊れてしまった。
昨日のパブは無事だったようで、営業していた。
中に入ると、昨日とは別の男たちが、やはり俯きながらグラスの琥珀色の液体をゆらゆら揺らしていた。
昨日の流浪の男は、今朝のことを知っていてあんなことを言ったのだろうか。
私はそれが知りたくてパブが閉まるまでそこに居たが、流浪の男はついに姿を現さなかった。
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