四月二日 管谷

「何もないところ」と昨日泊まったホテルの店員に聞いてはいたが、管谷は本当に何もないところだった。駅前には待合室と泊まったホテルが一軒あるだけで店舗も民家も周囲にはない。


どこか別の場所に行こうにも、次の列車が半日後と聞いて途方に暮れた。




もう、こんな旅、やめたほうがいいんだろうか。根を張るなんて簡単なこと、とあの大道芸人も言っていたではないか。


そう考えて、自分が母親のもとへ帰るところを想像してみたが、もはや今となっては、それも現実味のない妄想に思えた。


私の帰る場所はどこにあるんだろう。


どちらを選んでも正解だというなら、自分にとっての正解はどこにあるのだ。




待合室にいるときに、突然、郵便屋のような恰好をした人から声をかけられた。しかし、見たことのない会社の郵便屋だった。制服には青い蜻蛉の刺繍(『何者? 今回の手紙を届けたのと同じ会社のよう』と後から書き足されている)が縫い付けられていた。




「あなた宛てに杜郷様からの手紙が届いています」


と聞いて、私は飛び上がるほど驚いた。しかし、すぐに生前に出していた手紙がいま届いただけだと気が付いた。


杜郷さんはいつこんな手紙を書いていたのだろう、と思い、消印を探すと、封書には切手はおろか住所さえなかった。


こんな手紙、どうやって私のところに届けたのだ、と振り返ると、そこに郵便屋の姿はもうなかった。




手紙の封を開けると、中から未使用の旅行切符が山ほど入っていた。


丁寧に中を探したが、文字の手紙は入っていなかった。




私はもう一度、地図を開くことにした。


私のこれからの行き先を決めるのだ。

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