四月一日 未都
大きな都市に来ればどこか行きたい場所が見つかるのではないかと未都に来てみたが、とんだ誤算だった。
放射状に延びる行き先はどれも同じに見えた。私はそのなかで一番高い切符を買った。支線の駅だったため、出ている列車の本数は多くなく、三時間後に一本来るのみだった。
列車が来るまで、私は未都で暇を潰すことにした。
駅前で大道芸人が手品をしていた。
いまどき鳩を使った手品なんてやっているのが物珍しくて、しばらく見ていた。
しかし、途中で布の下に隠していた鳩が空に旅立ってしまい、見ているこちらがいたたまれなくなるほど大道芸人は落ち込んでいた。空っぽになった植木鉢の中を見つめながら呆然としてしまっている。
しばらくした後、大道芸人はやっと我に返り、芸人特有のノリで、失敗を挽回しはじめた。
「本来ならば、この鳩がぽんっと花に変わるところをお見せしたかったんですが……。いや、根を張るなんていうのはね、とても簡単なことなんですよ。ただ、鳥のように羽ばたけなくなるだけの話で。どちらが正しいかなんてわかりません。ただ、私の相棒は自由を選んだ。それだけのことで、どちらが正解なんてことは誰にも決められやしないんです」
大道芸人はそんなもっともらしいことを言った後、なぜか観客に背中を向け
「すみません、今日の手品はこれで終わりです」
と言って突然道具を片付け始めた。
私はその大道芸人の、芸というよりも言葉に感じ入るところがあったので、「ありがとう」と言って帽子の中に銀貨を1枚投げ入れておいた。
未都には小さな異国のようになっているところが数多くあり、ぐるっとまわるだけでも世界旅行している気分になれそうだった。さすがに列車の時刻に間に合わなくなるので引き返したが、次回訪れるときは酒屋を巡ってみてもいいのかもしれない。
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