一月二十日 祭曜
杜郷さんが言っていた「裏庭の薔薇の苗」を見てみたくなり、裏庭に入った。
この冬の寒さのなかでは、杜郷さんお気に入りの苗も他の薔薇の苗と変わりなかった。
頭上で、カタン、と物音がしたような気がして視線を上げると、音がしたのは二階のあかずの間だった。
あの部屋の中には誰もいないはずだが、実際に誰もいないのを見たわけではない。
私はお屋敷に戻り、物音の正体を突き止めようと、あかずの間の前に立った。
扉の中から物音がまだしていたので、私はノックした後、あかないだろうと思いながらもドアノブを回した。すると、ドアノブはなんの抵抗もなくするりと回ってしまった。
私がそのままドアを押すと「ピン」と音がして、金具が落ちた。部屋にかかっていたのはドアノブの鍵ではなく、掛け金で止めるだけの粗末な鍵だったのだ。
私が修繕のことで頭がいっぱいになっていると、足元を大きな鼠が走っていった。子猫ぐらいはありそうな大きさだった。どったどったと大きな音を立てながらあっというまにどこかに逃げていった。
そのとき、私は部屋の中からこちらを見ている視線に気が付いた。
肖像画だった。
おそらく、若い頃の杜郷さんと思われる人物とその夫と思われる人が手を重ね合わせてこちらを見つめていた。そして、その間の椅子に、もう一人、見知らぬ女性が描かれていた。青いベロア素材のワンピースを着て、両腕に真珠でできた腕輪をしていた。娘だろうか。
鍵の修繕の道具を取りに一階まで行ったときに、広間の大鏡に自分の姿が映った。
その時に気が付いた。
私はあの肖像画に描かれた女性と、なんとなく似ているのだ。顔こそ似ていないが、背格好や髪型から醸し出される雰囲気が。
見てはいけないものを見てしまった気がして、鍵をこっそりと直した後、私は杜郷さんにそのことを報告しなかった。
あの鍵は内側から締まっていたけれど、中に居た人はどうやって外に出たのだろう。
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