一月十日 藻美

今日はタケルおじさんのところへ報告をしにいった。


彫刻を燃やしてしまった報告だ。


万谷窪さんにも報告しなければならないが、冬の間に網布施の山奥へ向かうのは諦めた。こちらは春が来たら改めて報告しなければならない。




タケルおじさんは、こんなにも早い私の再訪問を戸惑いながらも笑顔で迎え入れてくれた。


しかし、私が彫刻を燃やしてしまったことを伝えると、今まで見たことのない冷えきった表情になった。


「つまり、君は」


そう言ったきり、後の言葉が続かなかった。


長い沈黙だった。


あまりに長い沈黙だったので、私はこう続けた。


「仕方がなかったのです、生きるためには」


すると、タケルおじさんは今度は私の言葉尻にかぶせながらこう言った。


「正しい。まったくもって正しいよ、君のした行為は。僕には君を『作る』ことなんてできないからね。だけど、君も芸術家の家に生まれた子ならわかるだろう。作品は息子のようなものなんだ。かけがえのない、たった一つの命と変わらないんだ。もうあの作品は戻らない。二度と」




私にはわからなかった。


自分の命よりも大事なものがあるということ、それを大切にするということが。




タケルおじさんは、コップに入っていた杏茶を私にかけた。


「それで許そう。僕はもう君の顔を二度と見たくない」


タケルおじさんが感情的になるところを私は初めて見た。タケルおじさんだからこれで済んでいるが、他の人ならこんなことでは済まないのだろう。


私がしたのは、そういうことだったのだろう。




「なぜ、許してくれるのですか」


私は最後にそう聞いた。


「君と僕が、わかりあうことのできない、違う人間だからだ。僕は愛を喪った」




かけられた杏茶の香りが、帰り道にずっと漂った。


手にわずかに付いていた木屑の香りを吸い込んだ。


もうこの香りを嗅ぐことは二度とできないのだろう。




タケルおじさんなら、わかってくれると思っていた。


お父さんの親友で、お父さんが作品づくりの取材のために山に行ったことを知っているタケルおじさんなら。お父さんが死んだ後に、母親があんな束縛魔になったことを知っているタケルおじさんなら。




私は大切な人を喪ってしまった。




この旅に出てから初めて、一人になることを寂しいと思った。

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