一月十五日 祭曜
正式に、百容堂の主人に「買い付けをしばらく休みたい」と申し出た。
百容堂の主人はたいそう怒っていた。
休みたいときだけ休んで働きたくなったら元の場所に戻れると思ったら大間違いだ。我々がいるのは大きな川の中なんだ。立ち止まっているのにだって踏ん張りが必要だ。力を抜いたらあっというまにどこかへ流される。お前がいるのはそういう場所なんだ。
言いたいことはわかるが、言葉を聞いたぐらいで私の気力が戻るわけでもない。
百容堂の主人の電信を逃げるように切って会話を終えた。
金策と住む場所については、杜郷さんという老婦人の世話になることになった。
杜郷さんはこの地の有力者なのだそうだ。金はあるが一人暮らしで、最近足腰が弱ってきたのでお手伝いさんを雇おうかどうしようか迷っていたらしい。
公園で一人でぼーっとしていたら杜郷さんのほうから声を掛けられた。事情を話すうちに、住み込みで働かせてもらえることになった。
こんな好条件、願ってもない話だが、なぜこんな流れ者の私を受け入れようと思ったのか、腑に落ちないところではある。
杜郷さんの家は古い異国情緒のある木の家だった。
聞けば百年以上は建っているそうで、木のような燃えやすく頑丈でもない素材で建てた家が百年以上壊れもせずにもっているのは不思議だった。
水回りが古いことを危惧したが、最新の大黄土式の風呂釜が備わっていて驚いた。木の家はこういった家の一部だけの改修がしやすいのだそうだ。
百年以上前から建っている、とは言ったが、本当に建てた当初から使われている木が今も残っているかは怪しいものである。やはり木のようなもろい素材が百年以上もつとは考えにくい。
地元の有力者とあって、屋敷内に置かれている美術品はどれも一級品ばかりに見える。
話を聞いておけば、買い付けを再開したときに向かいたくなる場所が見つかるかもしれない。
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